学生アスリートの方、長時間のデスクワークや前傾姿勢が続く社会人の方、そして慢性的な腰痛を抱える方々から、「腰が反りやすい」「体幹をひねると痛い」といった相談を受けることがあります。これらの症状の背景として、胸郭や胸椎の柔軟性低下が関与しているケースは少なくありません。

一見すると、腰椎分離症と胸郭・胸椎の機能は直接関係がないように感じられます。しかし、臨床ではこの部位が十分に動かないことで、体幹の回旋や伸展動作の負荷が下位腰椎に集中し、結果として腰椎弓部にストレスが蓄積しているケースを多く観察します。

今回のブログでは、胸郭・胸椎の柔軟性低下がどのようにして腰椎分離症の発症や遷延に影響するのか、そのメカニズムを解説し、フィジオセンターで行っているアプローチをご紹介します。

□ 胸郭・胸椎とは？

胸郭は、胸椎・肋骨・胸骨によって構成される「体幹の中心的なフレーム」です。胸椎は12個の椎体からなり、前額面・矢状面・水平面の三次元的な動きを持つ背骨の中でも重要な部分となります。胸郭・胸椎には以下のような役割があります。体幹の回旋・側屈・伸展・屈曲の中心的な動きの部分である事、肺や心臓を保護しつつ呼吸運動を担う事、特にスポーツ場面では、野球のスイング動作・投球動作、サッカーでのキック動作・方向転換などあらゆる動作で胸椎の回旋が不可欠です。

□ 胸郭・胸椎の柔軟性低下が腰椎に影響する理由

１つ目は、胸椎が動かないと、腰椎が過度に動いて不足した動きを補おうとするためです。通常であれば、体幹の回旋は 胸椎が主体となり、腰椎の動きは小さい動きとなります。しかし胸椎の柔軟性が低下すると、本来胸椎が担うべき回旋・伸展の動きを腰椎が代償するため、下位腰椎の腰椎弓部への剪断ストレスが増加します。

２つ目は、胸郭の可動性低下が呼吸パターンを変え、腰椎の安定性を低下させる事です。胸郭の拡張が十分にできないと、浅い胸式呼吸になりやすく、横隔膜の運動が制限されます。この体幹深層筋(インナーマッスル)の１つでもある横隔膜は腰椎前面に付着し、体幹機能を調整する重要な筋です。

３つ目は、胸椎伸展制限が骨盤前傾増大につながる事です。胸椎の伸展の柔軟性低下が低下すると、立位やスポーツ姿勢で胸郭を持ち上げる際に 下位腰椎を反らせて補う動作が多くみられます。その結果、骨盤前傾の増大・腰椎過伸展などが組み合わさり、下位腰椎弓部への圧縮・剪断ストレスはさらに増加していきます。

□ フィジオセンターで行うアプローチ

１つ目は、胸郭・胸椎の可動性評価です。まずは胸郭と胸椎の状態を詳細に評価します。胸椎回旋・伸展の柔軟性の確認、呼吸パターンをみて腹式呼吸か胸式呼吸が優位かの確認、実際のスポーツ動作の際の胸郭・胸椎の動き方

２つ目は、 胸椎・胸郭のモビライゼーションと呼吸のエクササイズ実施です。胸椎・胸郭の可動性改善と肋骨の動きの再獲得を目的に、以下のようなアプローチを行います。胸椎伸展モビライゼーション、胸郭拡張を促す呼吸練習、横隔膜の徒手介入(ストレッチ)、回旋可動域改善エクササイズなどを実施します。

３つ目は、体幹・股関節との連動トレーニングです。胸椎だけが動いても、全身で連動して使えなければスポーツ動作には反映する事が難しい可能性が高い事が想定されます。そのため、股関節内旋可動域の確保、回旋動作での胸椎主導パターンの習得、体幹深層筋の機能向上＋胸椎回旋の分離運動、競技特性に応じた胸椎の使い方の指導などを行います。これらを組み合わせ、胸椎の柔軟性を運動パターンに落とし込んでいきます。

□ まとめ

胸郭や胸椎の柔軟性低下は、一見すると腰椎分離症とは無関係に見えますが、実際には腰椎に対する代償動作、呼吸機能、体幹安定性、股関節を中心とした下肢との連動性に大きな影響を与えています。胸椎が動かない状態では、腰椎が過度に伸展・回旋のストレスを受けやすく、分離症の発症や再発のリスクが高まります。再発予防やパフォーマンス向上のためには、腰部だけでなく胸郭・胸椎の機能評価と可動性改善が欠かせません。

腰椎分離症と診断された方、部活動をしながら腰痛に悩まされている方、医療機関でのリハビリが十分に受けられずお困りの方は、ぜひフィジオセンターにご相談ください。症状の段階に合わせた評価と、その方に最適と考えられるエクササイズをご提案いたします。

理学療法士／保健医療科学修士号／認定理学療法士（運動器・脳卒中）
Certified Mulligan Practitioner（CMP）／LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志

フィジオセンター
TEL:03-6402-7755