飲み込みが悪い、喉が詰まりやすい方 頸部、胸郭、胸椎の柔軟性、喉周囲の筋トレーニングで改善しましょう。
嚥下(えんげ)機能を改善するための運動療法は、特に高齢者や嚥下障害を抱える方々にとって、日常生活の質を向上させる重要な手段です。嚥下に関わる筋肉や機能は、適切なエクササイズによって強化され、改善することが可能です。今回は、嚥下機能に対する運動療法の効果について、そのメカニズムや実際の改善例をご紹介します。
姿勢の改善と嚥下機能
まず、嚥下機能改善の基本となるのは姿勢です。正しい姿勢を保つことは、食道の機能に直接影響を与えます。前かがみや不安定な姿勢では、食道が圧迫され、飲み込みが困難になることがあります。一方、正しい姿勢を維持することで、食道が適切に機能し、食べ物や飲み物がスムーズに通過しやすくなります。
さらに、姿勢の改善は気道の確保にも重要です。嚥下の際、気道が閉じて食べ物や飲み物が誤って肺に入ることを防ぎます。猫背や頭を前に突き出した姿勢は、気道の閉鎖が不十分になる原因となり、誤嚥(食物や液体が気道に入ること)リスクが増加します。したがって、姿勢の調整は嚥下機能における非常に重要な要素なのです。
運動療法による嚥下改善
嚥下機能を向上させるためには、特定の筋肉や神経機能を鍛える運動療法が効果的です。以下に、代表的な嚥下機能改善のためのエクササイズをご紹介します。
- シャキアエクササイズ: 頭を持ち上げて下顎を引き、数秒間その姿勢を維持することで、喉の筋肉を強化します。この運動は、嚥下に関与する筋肉を強化し、食道の通過をスムーズにします。
- アイスマッサージ法: 小さな氷のキューブを口に含むか、冷たいものを口腔内に当てることで、嚥下反射を活性化させることができます。これは特に嚥下反応が遅れがちな人に効果的です。
- 声門閉鎖運動: 息を止めた状態で軽く声を出す練習を行うことで、喉の閉鎖を強化し、誤嚥を防ぐ力を向上させます。
これらのエクササイズは、嚥下機能を支える筋肉の強化だけでなく、神経機能の改善にも効果があります。日常的に取り組むことで、嚥下がスムーズになり、誤嚥のリスクを減らすことができます。
参考文献
嚥下改善に対する運動療法の効果は、多くの研究によって実証されています。以下の論文では、特にエクササイズが嚥下機能に与える影響について詳細に検証しています。
- Shaker R, Kern M, Bardan E, Taylor A, Stewart ET, Hoffmann RG, et al. Augmentation of deglutitive upper esophageal sphincter opening in the elderly by exercise. American Journal of Physiology. 1997; 272(6 Pt 1).
- この研究では、シャキアエクササイズが高齢者における嚥下機能の改善に効果的であることが報告されています。エクササイズによって上部食道括約筋の開放が改善され、食物の通過がスムーズになったことが示されています。
- Logemann JA, Rademaker AW, Pauloski BR, Kelly A, Stangl-McBreen C, Antinoja J, et al. A randomized study comparing the Shaker exercise with traditional therapy: a preliminary study. Dysphagia. 2009; 24(4):403-11.
- この論文では、シャキアエクササイズと従来の嚥下療法の比較が行われ、シャキアエクササイズが嚥下機能の向上において優れた効果を持つことが示されています。
これらの文献を参考にし、適切な運動療法を取り入れることで、嚥下機能を効果的に改善することが可能です。
また食道がんや咽頭がんの治療後、嚥下機能に問題を抱える方々に対しても、運動療法は効果的です。このような治療の後遺症で呑み込みが困難になることはよくありますが、適切なエクササイズを取り入れることで、機能の回復が期待できます。
食道がんや咽頭がんの後遺症に対する運動療法の効果
食道がんや咽頭がんの治療後、放射線療法や手術による影響で嚥下機能が低下することが多く見られます。このような場合でも、前述したシャキアエクササイズや声門閉鎖運動などの嚥下改善エクササイズが役立ちます。これらのエクササイズは、喉や食道周辺の筋肉を強化し、嚥下時の筋肉の協調性を改善することで、食べ物や飲み物が安全に喉を通過するのを助けます。
特に、がん治療後の患者に対しては、嚥下リハビリを専門とする理学療法士や言語聴覚士による個別の指導が推奨されます。リハビリを通じて、嚥下時の筋肉が再訓練されることで、食事の際の窒息リスクや誤嚥のリスクを低減し、生活の質が向上する可能性があります。
参考文献
- Logemann JA, Pauloski BR, Rademaker AW, Colangelo L, Kahrilas PJ, Smith CH. Speech and swallowing rehabilitation for head and neck cancer patients. The Journal of Speech and Hearing Research. 1993; 36(2):267-75.
- この研究では、頭頸部がん治療後の患者に対する嚥下リハビリテーションの有効性が示されています。特に、運動療法が嚥下機能の回復に役立つことが報告されています。
- Krisciunas GP, McCulloch TM, Barringer DA, Gramigna GD, Gooding WE, Clark CH. Swallowing therapy for patients with head and neck cancer undergoing chemoradiotherapy: a randomized trial. Dysphagia. 2019; 34(1):91-101.
- この論文では、頭頸部がん患者に対する嚥下療法が、嚥下機能の回復と生活の質の向上に寄与することが明らかにされています。
がん治療後の嚥下機能低下に苦しむ方々にとって、適切な運動療法は非常に効果的なサポート手段となります。
嚥下障害でお悩みの方は、ぜひ専門の理学療法士にご相談ください。(担当:理学療法士 大田まで)
フィジオセンター:
〒105-0003 東京都港区西新橋3丁目19−18 東京慈恵医科大学附属病院E棟2階
E-mail: info@physiocenter.jp (担当 大田)
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