発育性股関節形成不全が関節の負荷に与える影響について

発育性股関節形成不全が関節の負荷に与える影響について

本日のブログでは、発育性股関節形成不全が股関節の筋機能や関節への負荷に、どのような影響を与えるのかを明らかにしたSongら(2020)の研究をご紹介します。

□ 研究の概要
発育性股関節形成不全は、寛骨臼(股関節の受け皿部分)の被覆が不十分な骨の異常を特徴とし、股関節の不安定性や関節唇・軟骨への負荷増大を通じて、変形性股関節症の発症リスクを高めることが知られています。

Songらの研究では、発育性股関節形成不全を有する被験者と健常者それぞれ15名ずつを対象に、個別のMRI画像から作成した筋骨格モデル(筋や骨の動きを再現するコンピュータモデル)と歩行解析を用いて、動的な筋のモーメントアーム(筋が関節を動かすときのてこの長さ)、筋の作用線(筋がどの方向に力をかけるか)、および関節反力(joint reaction force:股関節に加わる力)を解析しました。

□ 研究の結果は以下のような内容でした

1つ目は、中殿筋など股関節外転筋のモーメントアームの短縮する事です。発育性股関節形成不全群では中殿筋(gluteus medius)のモーメントアームが健常群よりも一貫して短く、てこの効率が低下していることが示されました。これは、股関節中心(hip joint center:大腿骨と骨盤の回転中心)の位置が外側にずれることで、同じ動きをするためにより大きな筋力が必要になるという力学的不利を生んでいます。

2つ目は、関節反力の増加と方向性の変化です。モーメントアームの短縮により外転筋の筋力が増大し、それに伴い股関節にかかる関節への力も増加しました。歩行時の特定のタイミングにおいても関節に対する力が優位に高い値を示しました。vs 4.97×体重、p = 0.05)。

3つ目は、他の筋への波及的影響です。発育性股関節形成不全群では、中殿筋以外の筋肉の働き方にも変化が見られました。腸骨筋などは、本来は股関節を安定させる働きを一部担いますが、発育性股関節形成不全では逆に内転方向に働くようなモーメントアームを持ち、その代償として大腿筋膜張筋がより強く働かざるを得ない状況になっていました。

4つ目は、筋の作用線の変化と関節への力の方向です。発育性股関節形成不全群では、筋の作用線が内側方向へ偏る傾向があり、特に大殿筋で有意差が確認されました。これは、筋力が向かう方向がより内側に集中しやすくなり、結果として股関節の内側部分に過度のストレスがかかっていることを示しています。

    □ フィジオセンターでの臨床応用とリハビリテーションの視点

    1つ目は、軽度な発育性股関節形成不全例から早期の介入が重要である可能性です。本研究から明らかになったのは、「症状が出ていない軽度の発育性股関節形成不全でも、すでに筋や股関節に負担がかかっている」という事です。発育性股関節形成不全は変形性股関節症の発症に関与すると考えており、早期の介入によって進行を防ぐ可能性があります。

    2つ目は、関節可動域の確保と動作指導です。発育性股関節形成不全群では特定の動作、特に歩行などの重支持の場面で関節に負荷が集中するため、股関節の関節可動域を確保しながら、骨盤や体幹の安定性を高めるようなエクササイズが重要です。当センターでは、歩行のフォームや立位姿勢に加えて、筋バランスや関節アライメントを評価し、個別の施術・コンディショニングを行っています。

    □ まとめ
    本研究は、発育性股関節形成不全における骨の構造的異常が、筋の働きや股関節に加わる力にまで影響することを詳細に示しています。これは、発育性股関節形成不全が単なる形態的問題ではなく、力学的・機能的な問題を含んだ疾患であることを裏付けています。

    当センターでは、発育性股関節形成不全・変形性股関節症をお持ちの方で、外来リハビリテーションが処方されていない方、また医療保険での算定日数の影響により外来リハビリテーションが終了されている方、外来リハビリテーションと並行してリハビリテーションの実施をご希望される方に対して、最適と考えられる施術・コンディショニングをご提案しています。

    ご興味のある方は、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。
    どうぞよろしくお願いいたします。

    理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
    Certified Mulligan Practitioner(CMP) / マリガンコンセプト認定理学療法士
    LSVT®BIG認定セラピスト BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
    津田 泰志

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