股関節インピンジメント誘発姿勢と関節のすき間との関係について

股関節インピンジメント誘発姿勢と関節のすき間との関係について

今回のブログでは、今までの複数回解説を行ってきました、股関節インピンジメント症候群に関わる、股関節インピンジメント誘発姿勢と関節の隙間との関係について解説します。

□ 研究の概要

股関節インピンジメントは、骨の形態異常により股関節の可動域が制限され、運動時に股関節痛を引き起こす疾患として知られています。中でもCam型(※大腿骨の首の部分に余分な骨ができて丸みが失われるタイプ)やPincer型(※骨盤側のカップ状の部分が大きくかぶさりすぎるタイプ)といった形態的異常は、若年者から中高年にかけて股関節の痛みや将来的な変形性股関節症のリスク因子として注目されています。

Mohtajebら(2021)は、Cam変形およびPincer変形を持つ人における股関節の前方すき間(前方股関節クリアランス:β角)を、しゃがみ動作と股関節の徒手的な検査で用いられる事の多い、FADIR肢位(股関節屈曲・内転・内旋)という2つの代表的な股関節の姿位でMRIにより可視化・比較した研究を行いました(※β角とは、太ももの骨の丸みと骨盤の受け皿との間にどれくらいの“余裕”があるかを示す角度です)。

□ 研究の結果は以下の内容でした

1つ目はしゃがみ動作では痛みのある股関節に顕著な狭さを認める事です。Cam変形やPincer変形を持つ人(CPM群)を、「痛みあり(CPM+)」「痛みなし(CPM−)」の2群に分け、さらに健常群と比較したところ、しゃがみ姿勢ではCPM+群がもっともβ角が小さく、関節の前方スペースが狭くなっていることが明らかになりました。

β角が小さいということは、大腿骨頭と寛骨臼の接近度が高く、関節唇や軟骨への衝突が起きやすい状態を意味します。特に、痛みを有する群(CPM+)では、その“すき間”がマイナス値になるケースも多く、衝突によるストレスが実際に強くかかっていることが示唆されます。

2つ目は座位FADIR姿勢では痛みの有無にかかわらず狭くなるという事です。一方で、座った状態で股関節を屈曲・内転・内旋するFADIR姿勢(※脚を前に曲げて、内側にひねるような動き)では、痛みの有無に関係なく、CPM群全体で健常群に比べて有意にβ角が小さくなりました。これは、静的な姿勢であっても形態異常があると前方衝突のリスクが上がることを意味し、CamやPincer変形が症状の有無にかかわらず機械的なリスク因子になりうることを示しています。

3つ目は、動的な姿勢がより敏感な評価指標になる可能性です。しゃがみ姿勢ではCPM+とCPM−の間に明確な差がある一方、FADIR肢位では差が見られませんでした。この結果から、実際の動作中に発現するインピンジメントの方が、痛みの有無に直結する可能性があり、臨床評価において動作に関わる評価を取り入れる意義があると考えられます。

□ フィジオセンターでの臨床応用とリハビリテーションの視点

1つ目はインピンジメントの“見えない原因”を動作から捉える事です。本研究は、見た目には動きの大きな違いがないにもかかわらず、股関節内でのクリアランスには大きな差があることを明らかにしています。当センターではインピンジメント症候群をお持ちの方に対して、立ち上がり動作・しゃがみ動作・靴下を履く動きなど、股関節を深く曲げる動きに着目して施術・コンディショニングを実施しています。

2つ目は形態的異常と筋機能の関連性への配慮です。痛みの有無の違いは、骨形状だけでは説明できず、筋肉や靭帯の機能による股関節頭の求心位を保てるかどうかである可能性があります。当センターでは、股関節のインナーマッスルに関わる機能評価を通じて、関節内の負担を軽減するエクササイズ指導を行っています。

3つ目は座位時間が長い方やデスクワーカーへの座位姿勢の指導です。FADIR姿勢でのクリアランスの減少は、座位時間が長い方、特に股関節を深く曲げて長時間座る方にとっては重要なリスク因子です。椅子の高さや座り姿勢、定期的な立ち上がり動作の指導などを通じて、静的なインピンジメントの発現リスクを軽減する取り組みも併せて提案しています。

□ まとめ

Mohtajebら(2021)の研究は、Cam・Pincer変形を有する股関節における前方クリアランスの減少が、動的な姿勢下で痛みと強く関係することを明らかにしました。特に、「しゃがむ」「座る」といった日常生活に頻出する動作の中で、関節内の“すき間”がどう変化しているかを把握することの重要性を教えてくれます。

当センターでは、大腿骨寛骨臼インピンジメント・変形性股関節症をお持ちの方で、外来リハビリテーションが処方されていない方、また医療保険での算定日数の影響により外来リハビリテーションが終了されている方、外来リハビリテーションと並行してリハビリテーションの実施をご希望される方に対して、最適と考えられる施術・コンディショニングをご提案しています。

ご興味のある方は、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。
どうぞよろしくお願いいたします。

理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP) / マリガンコンセプト認定理学療法士
LSVT®BIG認定セラピスト BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志

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