パーキンソン病は、黒質線条体系の変性を中核とする神経変性疾患です。この神経回路は運動制御において極めて重要な役割を果たしており、その機能低下が無動・寡動、筋強剛、安静時振戦といった運動症状の主因となります。
近年、薬物療法に加え、運動療法が黒質線条体系そのものに機能的・構造的変化をもたらす可能性が注目されています。今回のブログでは、黒質線条体系の役割を整理した上で、運動療法がこの神経回路にどのような影響を及ぼすのかを、神経科学的観点から解説します。
黒質線条体系とは何か
黒質線条体系とは、中脳の黒質緻密部から、線条体(被殻および尾状核)へ投射するドーパミン作動性神経経路を指します。この経路は、大脳基底核回路の中核をなし、以下の機能に深く関与しています。
- 運動開始の円滑化
- 運動の大きさ・速度・リズムの調整
- 不要な運動出力の抑制
パーキンソン病をお持ちの方では、この黒質ドーパミン作動性ニューロンが選択的に変性・脱落し、線条体内のドーパミン濃度が低下してしまいます。その結果、大脳基底核の直接路と間接路のバランスが破綻し、運動出力が過剰に抑制された状態となります。
運動療法が黒質線条体系に及ぼす神経生物学的影響
1. ドーパミン神経の神経保護作用
定期的かつ高強度の運動が、黒質ドーパミン作動性ニューロンの生存を支持することが示唆されています。
運動によって増加する代表的な因子が、BDNF(脳由来神経栄養因子)と考えられています。この因子は、
- ドーパミンニューロンのアポトーシス抑制
- 軸索・シナプスの維持
- 神経回路の可塑的変化の促進
といった神経保護的作用を持ち、黒質線条体系の機能低下を緩和すると考えられています。
2. 線条体におけるドーパミン利用効率の改善
運動療法は、ドーパミン量そのものを増やすだけでなく、線条体におけるドーパミン受容体感受性やシグナル伝達効率を高める可能性があります。
特に、D2受容体を介した間接路の過剰抑制が是正されることで、大脳基底核全体の出力バランスが改善し、運動開始や運動振幅の拡大につながると考えられています。
神経回路レベルでの再編成(神経可塑性)
運動は、黒質線条体系単独に作用するのではなく、大脳皮質―基底核―小脳ネットワーク全体の再構築を促します。
- 大脳皮質運動野からの入力強化
- 小脳を介した代償的運動制御
- 感覚入力(固有受容覚・視覚・聴覚)を統合した運動学習
これらの変化により、黒質線条体系の機能低下を他の神経回路が補完し、結果として歩行、姿勢制御、リズム運動の改善が生じます。
臨床的に意味を持つ運動療法の条件
黒質線条体系に変化をもたらすためには、単なる低負荷運動では不十分とされています。重要なのは、
- 高強度(心拍数・努力度の確保)
- 高頻度・反復性
- 課題特異性(歩行、方向転換、デュアルタスクなど)
- エラーを伴うチャレンジングな運動
これらの要素を含む運動が、神経可塑性を最大化し、黒質線条体系への介入効果を高めます。
フィジオセンターにおける実践
フィジオセンターでは、パーキンソン病の進行度や症状特性を評価した上で、黒質線条体系を含む中枢神経系への影響を意識した運動療法を提供しています。
LSVT® BIG、歩行・バランストレーニング、デュアルタスク課題などを組み合わせ、単なる機能維持にとどまらず、神経組織にもアプローチを行う事を想定したリハビリテーションを実践しています。
まとめ
運動療法は、もはや対症的アプローチではなく、黒質線条体系に働きかける神経科学的介入として位置づけられつつあります。継続的かつ適切にデザインされた運動は、パーキンソン病とともに生きる方々の生活の質を大きく支える力を持っています。
パーキンソン病をお持ちで運動症状でお困りの方、専門的なリハビリテーションをご希望の方は、ぜひフィジオセンターまでご相談ください。どうぞよろしくお願いいたします。
※年末年始休業のお知らせ
・2025年12月26日(金)17:00まで営業。
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理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755