「歩いていると体が前のめりになってしまう」「ふとした拍子に横に倒れそうになる」 パーキンソン病をお持ちの方から、このようなご相談をいただくことが多くあります。
これらは単に足の力が弱くなったから起きるのではなく、「歩行中の体幹の安定性低下」が大きく関与しています。
歩行というと「足の動き」に目が行きがちですが、実はその土台となる体幹機能が、安全で効率的な歩行の鍵を握っています。本日のブログでは、なぜパーキンソン病において体幹へのアプローチが重要なのか、最新の知見を交えて解説します。
なぜパーキンソン病では「体幹」が不安定になるのか
パーキンソン病の特徴的な症状の一つに「固縮(こしゅく)」があります。これは筋肉がこわばる症状ですが、手足だけでなく、体幹の筋肉にも影響を及ぼします。
その影響により体幹が硬くなると、以下のような悪循環が生まれます。
・姿勢の変化: 背中が丸まり、前傾姿勢になりやすくなる。
・回旋の欠如: 歩くときに必要な「胸郭と骨盤のねじれ」が失われ、体が固まったまま動くことになる。
・バランス反応の遅れ: バランスを崩した際に、体幹を素早く立て直す反応が遅れる。
結果として、歩幅が狭くなり、加速歩行(突進現象)や転倒のリスクが高まってしまう可能性があります。
体幹安定性が歩行を支えるメカニズム
「体幹を鍛える」というと、腹筋運動のような筋力トレーニングをイメージされるかもしれません。しかし、パーキンソン病のリハビリテーションにおいて重要なのは、単なる筋力ではなく「姿勢制御能力(姿勢を安定して保つ機能)」です。
安定した体幹は、歩行において以下の役割を果たします。
1.手足の自由な動きを保証する 体の中心がドシッと安定することで、股関節や肩甲骨がスムーズに動き、自然な腕振りと大きな歩幅が生まれます。
2.重心移動をスムーズにする 左右への過剰な揺れを防ぎ、真っ直ぐ前方へ進む推進力を生み出します。
3.視線を安定させる 上体が起きることで視線が上がり、周囲の環境情報を把握しやすくなります。
最新エビデンスから見るエクササイズの効果
近年の理学療法ガイドラインやシステマティックレビュー(複数の研究を統合した分析)において、パーキンソン病患者に対する「体幹トレーニング(コアスタビリティ・エクササイズ)」の有効性が多数報告されています。
具体的には、通常の歩行練習に体幹機能へのアプローチを加えることで、以下の改善が示唆されています。
・バランス能力の向上: 「バーグ・バランス・スケール(BBS)」などの客観的指標におけるスコア改善。
・転倒リスクの低減: 重心の動揺範囲が安定し、ふらつきが減少する。
・歩行の質の変化: 歩行速度だけでなく、ストライド長(歩幅)の延長や、方向転換時のスムーズさが向上する。
特に、「脊柱の柔軟性」と「体幹深層筋の活動」を組み合わせた運動が、強張った筋肉を緩めつつ安定性を高めるために有効であるとされています。
フィジオセンターにおけるアプローチの考え方
フィジオセンターでは、パーキンソン病特有の身体状況を考慮し、以下のようなステップで介入を行います。
1. 柔軟性の評価と改善
まずは固縮により硬くなった胸郭(肋骨周り)や脊柱の柔軟性を評価します。呼吸が浅くなっていないか、体を左右に捻ることができるかを確認し、リリースややストレッチで「動きやすい身体」を目指します。
2. 静的な安定性の獲得
良い姿勢を保つための感覚入力を行います。鏡を見たり、セラピストの手の誘導(ハンドリング)を用いたりして、「真っ直ぐな姿勢」を確認いたします。
3. 動的な安定性と連動性
止まった状態で姿勢が良いだけでは意味がありません。「手足を動かしながらでも体幹がブレない」「歩きながら上体を捻る」といった、実際の歩行に近い動きの中で体幹をコントロールする練習を行います。
日常生活で意識できること
ご自宅で安全に行える簡単な意識付けとして、以下の点をお勧めすることがあります。
・「みぞおち」を高く保つ 無理に背中を反るのではなく、みぞおちを少し上に引き上げるイメージを持つと、過度な緊張なく姿勢が整いやすくなります。
・腕振りを意識する 腕を振ることは、体幹の回旋(ねじれ)を誘発し、背骨周りの筋肉をほぐす効果があります。
まとめ
歩行中のふらつきや姿勢の崩れは、足腰の弱さだけが原因ではありません。体幹の機能を「再学習」することで、歩行の安定性と安心感は大きく変わる可能性があります。
「最近、姿勢が悪くなってきた気がする」「歩くときに体がグラグラする」と感じられた際は、ぜひ一度フィジオセンターにご相談ください。お一人おひとりの身体の特徴クセや症状に合わせ、医学的根拠に基づいた評価とプログラムをご提案いたします。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755