学生アスリートの方、部活動での練習量が増える中で腰痛に悩む方、とくに野球やサッカーなどの体を捻る動きを伴うスポーツを行う場合、股関節の柔軟性低下が腰椎分離症の発症や痛みの遷延に関与しているケースは少なくありません。
一見すると、股関節と腰椎分離症は直接的には無関係に思えます。しかし、先行研究やスポーツ現場で選手の体の機能を確認すると、股関節の関節可動域制限や筋の硬さによって腰椎への負担が増加し、結果として下位腰椎の腰椎弓部に繰り返しストレスがかかっている例を多く経験します。
今回のブログでは、股関節の柔軟性低下がどのようにして腰椎分離症に影響を及ぼすのか、そのメカニズムとフィジオセンターで行っているアプローチをご紹介します。
□股関節の柔軟性低下が腰椎に影響する理由
1つ目は、股関節伸展(立った姿勢の場合、骨盤が後傾する動き)動作の代償で腰椎が過度に動いてしまう事です。股関節伸展角度が不足すると、走行中やキック動作で骨盤を前傾させ、腰椎を反らせる動きで不足分の動きを補おうとします。このように股関節の可動性低下は、腰椎への過伸展ストレスや剪断ストレスを引き起こし、腰椎弓部に負荷を蓄積しやすくなります。特に、腰椎分離症が生じやすいL5–S1周囲では、股関節伸展制限があると強い代償動作が起こりやすいため注意が必要です。
2つ目は、股関節内旋制限が体幹回旋(捻りの動き)の負担を増やす事です。サッカーや野球など回旋が多いスポーツでは、股関節内旋可動域が極めて重要です。股関節内旋の関節可動域に制限があると、回旋動作の不足が骨盤や腰椎に伝わり、胸椎や股関節で担うべき回旋が腰椎へ集中してしまいます。通常、腰椎は回旋の可動域が元々小さいため、無理に回旋を行おうとすると腰椎弓部に強い剪断力がかかり、腰椎分離症の発症につながりやすくなります。
□フィジオセンターで行う評価とアプローチの一部
1つ目は、股関節の関節可動域・筋機能の検査です。まずは股関節の屈曲・伸展・内旋・外旋の可動域を細かく評価します。加えて、骨盤前傾・後傾を含めた全身の姿勢、股関節周囲筋の緊張と筋バランス、競技動作中の股関節の使い方などを確認し、どの動作で腰椎に負担がかかっているかを確認します。
2つ目は、股関節の柔軟性を高めるアプローチの実施です。股関節の可動性改善に向けて、以下のようなアプローチを行います。股関節に対するモビライゼーション、硬さや長さが短くなってしまった筋肉に対しての、リリースやストレッチを実施して、腰椎の余分な過剰な動きを抑制していきます。
3つ目は、動きが過剰となっている腰椎を安定化するためのエクササイズの実施です。先に述べた理由により、分離症を呈している腰椎は動きが過剰になっている事に加えて、多裂筋を中心とした腰椎を安定する機能を持つ筋肉の機能が低下していたり、筋自体が萎縮している場合が少なくありません。これらの筋肉の再教育を行い、過剰となった可動性を抑制します。
□まとめ
股関節の柔軟性低下は、一見すると腰椎分離症とは無関係に感じられますが、実際には腰椎の過伸展・過回旋の代償、骨盤アライメントの変化、股関節周囲筋の緊張など、腰椎弓部に強いストレスを生じる要因となります。
適切な評価のもと、股関節の関節可動性改善と動作トレーニングを合わせて進めることで、腰椎分離症の再発予防やパフォーマンス向上に大きく寄与します。腰椎分離症と診断された方、部活動をしながら腰痛に悩まされている方、医療機関でのリハビリが十分に受けられずお困りの方は、ぜひフィジオセンターにご相談ください。症状の段階に合わせた評価と、その方に最適と考えられるエクササイズをご提案いたします。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755