学生アスリートの中学生、高校生の方から「腰椎分離症と診断されたが、姿勢の悪さも関係するのか?」というご相談を受けることがあります。特に、スマートフォンやPCの使用時間が増える現代では、頭部が前方に位置する「頭部前方偏倚(Forward Head Posture:FHP)」が姿勢異常の一つとして注目されています。
一見すると、頭の位置と腰椎分離症は直接は関係ないように思われがちです。しかし、実際には頭部の位置は脊柱全体のアライメントと密接に関連しており、頭部前方偏倚が続くことで腰椎へのストレスが高まり、腰椎分離症の発症や症状の遷延に影響を及ぼすケースもみられると考えています。
今回のブログでは、頭部前方偏倚がどのようにして腰椎に負担をかけ、腰椎分離症の発症に関与してしまうのか、そのメカニズムとフィジオセンターでのアプローチについてご紹介します。
□頭部前方偏倚とは何か
頭部前方偏倚とは、頭の位置が体幹より前に突出した姿勢を指します。頚椎のカーブ(前弯)が減少し、胸椎の後弯が増大、骨盤のアライメントにも変化が及ぶことが特徴です。
本来、頭部は身体の重心線上に位置し、頚椎・胸椎・腰椎の自然な弯曲によってバランスが保たれています。しかし頭の位置がわずかに前へずれるだけでも、頭部の重さは実質的に2〜3倍に感じられるほど頚部や体幹への負担は増加します。この「わずかな姿勢の崩れ」が脊柱全体の配列を変化させ、最終的に腰椎へ過剰な剪断力や圧縮力を生じる要因となると考えています。
□頭部前方偏倚が腰椎分離症に影響するメカニズム
1つ目は、骨盤後傾の増強による下位腰椎過伸展です。頭部前方偏倚が続くと、重心が上半身の重さが後方にずれることで身体はバランスを保つために骨盤を後傾させやすくなります。骨盤が後傾すると、後方に移動した上半身の位置を前方に戻すために、下位腰椎の部分で前弯を増強させる事で対応する場合があります。この場合、腰椎弓部への過伸展ストレスが高まります。
2つ目は、体幹筋の機能低下と腰椎の不安定性です。頭部が前へ移動すると、頚部後方筋(頭板状筋・僧帽筋上部など)が過緊張し、胸椎はさらに後弯します。この連鎖によって多裂筋・腹横筋腹筋群の活動が低下し、腹腔内圧が低下しやすくなります。この場合、腰椎の安定性が損なわれるため、腰椎の運動が過剰となるリスクた高まります。
3つ目は、胸椎可動性の低下による腰椎への回旋ストレスの増加です。頭部前方偏倚に伴う胸椎後弯の増大は、胸椎の伸展・回旋可動域を低下させます。その結果、スポーツ動作や日常動作で必要な回旋・伸展の動きが胸椎で出す事が難しくなり、腰椎がその不足を代償しようとします。腰椎はもともと伸展・回旋可動域が小さく、この代償が繰り返されることで下位腰椎の腰椎弓部に強い剪断力がかかり、腰椎分離症の発症に関与します。
□フィジオセンターで行う評価とアプローチ
1つ目は、頭部・頚椎から骨盤、足部までの全体的な姿勢評価です。まず、頭部前方偏倚の程度、頚椎前弯の変化、胸椎の後弯、骨盤の前後傾、腰椎前弯の状態、下肢のアライメントなど、全体の位置関係を評価します。加えて、胸椎の可動性、腹横筋・多裂筋などの体幹支持筋の機能、スポーツ動作(ランニング・キック動作・バッティング動作)における姿勢の崩れも確認します。
2つ目は、頭部前方偏倚の改善に向けたアプローチです。頚椎のアライメント修正を目的とした深層筋エクササイズ、胸椎に対する伸展方向へのモビライゼーション、体幹深層筋エクササイズなどを行い、頭部を本来の位置に誘導して、胸椎の関節可動域を確保します。
3つ目は、腰椎の安定化エクササイズです。頭部前方偏倚が改善しても、腰椎分離部位が不安定な状態であれば症状は再発しやすくなります。分離症を呈している高さの多裂筋、腹部前面の安定性を高める腹横筋の再教育を中心としたエクササイズを実施し、腰椎の過伸展や過回旋を抑制できる状態を目指します。
4つ目は、スポーツ動作の確認です。競技特性に合わせて、胸椎回旋を促すフォーム、骨盤前後傾のコントロール、頚部の過剰緊張を抑える動作などを細かく確認します。姿勢改善だけでなく、競技力向上にもつながる点が大きなメリットです。
□まとめ
頭部前方偏倚は一見すると頚部や肩こりの問題に見えますが、実際には脊柱全体のアライメントに影響を与え、骨盤後傾の増強や体幹深層筋の機能低下を引き起こし、最終的に腰椎へのストレスを増大させる要因になります。
腰椎分離症の方において、頭部前方偏倚を放置したままでは、いくら腰部だけを治療しても根本的な改善には結びつきにくく、再発リスクも高くなります。適切な評価と姿勢改善、胸椎・体幹機能の再教育によって、腰椎への負担を大きく減らすことが可能です。
腰椎分離症による痛みでお困りの方、姿勢の崩れが気になる方、スポーツ動作に不安がある方は、ぜひフィジオセンターにご相談ください。適切な評価のもと、頸部のアライメント修正やと姿勢・動作トレーニングを合わせて進めることで、腰椎分離症の再発予防やパフォーマンス向上に大きく寄与します。腰椎分離症と診断された方、部活動をしながら腰痛に悩まされている方、医療機関でのリハビリが十分に受けられずお困りの方は、ぜひフィジオセンターにご相談ください。症状の段階に合わせた評価と、その方に最適と考えられるエクササイズをご提案いたします。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755