―「歩く」を再構築する全身運動という選択肢―
「歩幅が小さくなってきた」「腕が振れない」「長く歩くと疲れやすい」パーキンソン病をお持ちの方から、このような変化についてご相談を受けることがあります。
歩行障害は、パーキンソン病の中核症状の一つです。小刻み歩行、すくみ足、前傾姿勢、上肢の振りの減少などがみられ、転倒リスクの上昇や活動量の低下につながります。
こうした歩行の問題に対して、近年注目されている運動方法の一つがノルディックウォーキングです。本日のブログでは、その効果と、実際に取り入れる際のポイントについて解説します。
ノルディックウォーキングとは
ノルディックウォーキングは、専用のポールを用いて歩く全身運動です。両手でポールを交互に突きながら歩くことで、自然に上肢の振りが促され、体幹の回旋(捻り)運動が強調されます。
通常の歩行と比べて、
・上肢(両手)の活動量の増加
・体幹回旋(捻り)の拡大
・歩幅の拡大
・エネルギー消費量の増加
といった特徴があります。
パーキンソン病をお持ちの方では、歩行時の上肢振りの減少や体幹回旋の低下がみられやすいため、ノルディックウォーキングは理論的にも適した運動様式と考えられています。
エビデンスからみた効果
近年のランダム化比較試験では、ノルディックウォーキングを一定期間実施した群で、
・歩行速度の向上
・歩幅の増加
・6分間歩行距離の改善
・バランス機能の向上
・運動症状(UPDRS-Ⅲ)の改善
が報告されています。
また、ポールを用いることで外的キュー(外から与えられる刺激)としての役割も果たします。ポールを「突く」という明確な動作がリズム形成を助け、歩行の自動化を補完すると考えられています。さらに、全身持久力を高める有酸素運動であることから、心肺機能維持や抑うつ傾向の軽減といった二次的効果も示唆されています。
なぜポールが有効なのか
パーキンソン病では、基底核を中心としたネットワーク機能低下により、動作の自動化が障害されやすくなります。その結果、
・歩幅が徐々に小さくなる
・リズムが乱れる
・動き出しが遅れる
といった現象が生じます。
ポール操作は、視覚・触覚・固有感覚を同時に刺激します。この複数の感覚入力は運動出力を安定させる手がかりとなり、歩行パターンの再構築を助けます。特に、腕の振りが促されることで体幹回旋の動きが改善し、骨盤の動きが引き出される点は重要です。歩行は下肢だけの運動ではなく、全身の協調運動であるためです。
フィジオセンターの考え方
「安全に、生活に活かせる形で」
ノルディックウォーキングは有効な運動ですが、誰にでもそのまま適応できるわけではありません。フィジオセンターでは、以下の流れで導入を検討します。
1.適応の評価
・転倒歴の有無
・すくみ足の頻度
・上肢の関節可動域
・姿勢アライメント
これらの事を検討して屋外歩行が安全に可能かを確認します。
2.ポール操作の練習
いきなり屋外で行うのではなく、室内でポール操作と歩行の協調を練習します。「ポールを強く突く」ことよりも、「リズムよく交互に出す」ことを優先します。
3.姿勢と視線の調整
前傾姿勢が強い場合は、体幹伸展と視線の先行を意識づけます。ポールは支えではなく、前方への推進力を生む道具として使います。
4.生活への応用
公園歩行、買い物時の移動など、実際の生活場面に合わせて距離や時間を調整します。過負荷にならない頻度設定も重要です。
注意すべき点
・すくみ足が強い方では、ポール操作がかえって混乱を招く場合があります。
・狭い場所や人混みでは使用が難しいことがあります。
・疲労によりフォームが崩れると転倒リスクが高まります。
そのため、導入前の評価と段階的練習が不可欠です。
まとめ
ノルディックウォーキングは、パーキンソン病の歩行障害に対して、
・歩幅拡大
・リズム改善
・体幹回旋促進
・持久力向上
といった多面的効果が期待できる運動方法です。エビデンスも蓄積されつつあり、安全に実施すれば有効な選択肢となります。
ただし大切なのは、「良い運動」かどうかではなく、「その方に適しているかどうか」です。「最近歩く距離が減ってきた」「外出に自信がなくなってきた」そのような変化を感じた際には、早めの評価が重要です。
フィジオセンターでは、医学的根拠に基づいた運動処方と、生活に結びつく実践的プログラムをご提案しています。無理なく、安全に、そして継続できる形での運動導入をサポートいたします。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755