パーキンソン病をお持ちの方やご家族から、歩行について次のようなお悩みを伺うことが多くあります。
・「足が床に張り付いたように、最初の一歩が出にくい(すくみ足)」、「歩いているうちに、だんだん小走りになって止まれない」、「頭では分かっているのに、足のリズムが合わずもつれそうになる」
このような歩行の変化は、転倒のリスクを高めるだけでなく、外出に対する不安や自信の低下につながることもあります。前回のブログでは「小刻み歩行」の原因について解説しましたが、今回は歩行をスムーズにするために有効な手段と考えられている「リズム歩行(聴覚的な外的キューを用いた歩行)」について、そのメカニズムと実践方法を解説します。
なぜパーキンソン病で歩行のリズムが崩れるのか?
私たちが普段、無意識に一定のペースで歩けるのは、脳内にある「大脳基底核)」という部分が、動きのリズムや大きさを自動的に調整してくれているためです(これを「内的キュー」と呼びます)。
しかし、パーキンソン病をお持ちの方ではこの大脳基底核を中心とした神経ネットワークの働きが低下するため、自分自身で適切なリズムを作り出し、それを維持することが難しくなります。その結果、歩幅が徐々に狭くなったり、足の出るリズムだけが早くなってしまうような、歩行の不具合が生じやすくなります。
リズム歩行(聴覚刺激)の医学的な効果
自分自身でリズムを作ることが難しい場合、外部からの音やリズムを頼りに歩く「外的キュー」を利用することが、効果的と考えられています。特に音のリズムに合わせた歩行は「リズミック聴覚刺激」と呼ばれ、リハビリテーションで広く取り入れられています。
耳から入ったリズミカルな音の刺激は、機能が低下している大脳基底核のルートを迂回し、運動を司る脳の領域(補足運動野や運動前野)を直接刺激すると考えられています。これにより、歩行速度の向上、歩幅の拡大、そしてすくみ足の減少に有効であることが多くの研究で報告されています。
ご自宅でできるリズム歩行の実践方法
日常生活のなかで、音のリズムを取り入れた歩行練習を行うための具体的な方法をご紹介します。
1. メトロノームの音に合わせた歩行練習
最もシンプルで効果的な方法の一つです。最近ではスマートフォンの無料アプリでも簡単にメトロノーム機能を使うことができます。
- 方法: 「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」という一定の音に合わせて、一歩ずつ足を踏み出します。
- テンポの目安: その方が「少し快適に歩けるペース」の100%〜110%程度のテンポが推奨されることが多いですが、通常は「1分間に100〜110回(100-110 BPM)」前後から始め、無理のないペースを見つけることが大切です。
2. 音楽に合わせた歩行練習
メトロノームの単調な音が苦手な方は、一定のテンポで進む音楽(行進曲や、手拍子がしやすい曲)を聴きながら歩くのも良い方法です。「1・2・1・2」と心の中で、あるいは声に出してカウントしながら歩くことで、さらにリズムが整いやすくなります。
3. 実践する際の重要なポイント
リズムに合わせることだけを意識すると、かえって歩幅が小さくなってしまうことがあります。音に合わせて「腕をしっかり振る」「かかとから大きく踏み出す」ことを同時に意識すると、よりダイナミックで安定した歩行につながりやすくなります。
フィジオセンターでの取り組み
リズム歩行は非常に効果的ですが、「最適なテンポ」や「歩幅の広げ方」は、お一人おひとりの姿勢や歩行状態によって異なります。間違ったテンポでの練習は、逆にすくみ足を誘発してしまう可能性もあるため注意が必要です。
フィジオセンターでは、次のような専門的なサポートを行っています。
1. 専門的な歩行・姿勢評価
まずは理学療法士が、歩行速度、歩幅、左右のバランス、体幹の傾きなどを詳細に評価し、歩きにくさの根本的な原因を考察します。
2. オーダーメイドの運動プログラム
評価に基づき、その方に最も適したメトロノームのテンポ(BPM)を導き出します。また、パーキンソン病の運動療法として国際的に知られているLSVT® BIGプログラムの考え方を取り入れ、ただリズムに合わせるだけでなく「動作の振幅を大きくする(大きく動く)」ためのトレーニングを掛け合わせ、より実践的な歩行改善を目指します。
3. 日常生活への落とし込み
施設内での練習だけでなく、「横断歩道を渡るとき」「狭い廊下を歩くとき」など、すくみ足が起きやすい実際の生活場面を想定し、ご自身でリズムを刻んで歩き出すための方法を検討します。
まとめ
パーキンソン病による歩行障害には、「メトロノームなどの音に合わせたリズム歩行」が、医学的にも非常に有効なアプローチの一つとされています。
・外部のリズムを使うことで、脳の運動回路が刺激される
・歩行速度や歩幅の改善、すくみ足の軽減に効果が期待できる
・適切なテンポを見つけ、「大きく歩く」意識と組み合わせることが重要
「最近、歩くリズムが崩れてきた」「最初の一歩が出にくい」と感じたら、まずは一度、専門家による歩行のチェックを受けることをおすすめします。フィジオセンターでは、最新の知見と医学的根拠に基づきサポートを実施しております。お気軽にご相談ください。
理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/マリガンコンセプト認定理学療法士
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
LSVT®BIG認定セラピスト BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
フットコントロールトレーナー LICENSE B
磁気刺激装置テクニカルサポート
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755