発育性股関節形成不全と筋機能との関係について

発育性股関節形成不全と筋機能との関係について

フィジオセンターでは、変形性股関節症や発育性股関節形成不全をお持ちの方々に向けて、根拠に基づいた情報を定期的にブログで発信しています。今回のブログでは、「発育性股関節形成不全と筋機能との関係」(Harrisら, 2022)について解説します。

□研究の概要
この研究では、発育性股関節形成不全をお持ちの患者(20名)と健常対照者(15名)を対象に、股関節の骨構造と筋機能の関連性を詳細に分析しました。具体的には、以下の項目が評価されました。

・骨の構造:側方中心端角、大腿骨頸体角、股関節中心の位置 ※まとめると骨の形や関節の位置をさします。
・筋構造:中殿筋・小殿筋・大殿筋の筋量、筋肉モーメントアーム(てこの原理)、筋肉内脂肪浸潤
・筋機能:股関節外転・伸展・屈曲の等尺性筋力 ※どれくれらいの力を発揮できるかを調べたもの

□研究の結果としては以下の内容が挙げられます

1つ目は、骨構造の変化と股関節中心の変位です。発育性股関節形成不全を持つ患者群では、側方中心端角小さく、頚体角が大きく、股関節中心が外側へ移動していました。大まかにまとめると、股関節のはまり込みが浅く、関節の中心が外側にずれている事がわかりました。

2つ目は、筋モーメントアームの短縮です。これは、筋肉の働く効率が低下している事を指します。発育性股関節形成不全を持つ患者群では、中殿筋・小殿筋・大殿筋・大腿筋膜張筋モーメントアームがすべて有意に短縮していました。この事は筋肉が股関節を安定化・運動する上で効率が低下していることを示します。

3つ目は、筋量の増加と筋力の維持です。これは、筋肉が余分に頑張っており大きくなっていた事を指します。興味深いことに、発育性股関節形成不全を持つ患者群では中殿筋の筋量がに大きく、筋力(力の発揮)は健常者と有意差がなかったことから、短縮したモーメントアームを補うために筋肉が発達している可能性が示されました。

4つ目は、筋肉内脂肪(筋肉内に脂肪組織が増える事です)の変化はない事です。中殿筋・大殿筋の筋肉内脂肪量に大きな差は認められず、筋量増加が脂肪の蓄積ではなく、純粋な筋肥大による可能性が高いとされました。

    □フィジオセンターでの臨床場面での応用
    こちらの研究内容から考えられる、実際の応用としては以下の内容が考えられます。

    1つ目は、殿筋群の効率的な機能回復を目指したエクササイズの実施です。発育性股関節形成不全を持つ患者群では、股関節外転筋のモーメントアームが短くなること(てこの原理で不利になる事)で、筋肉への負荷が常に高くなります。そのため、単なる筋力強化ではなく、筋力発揮効率の向上を目指したトレーニング(例:体幹深層筋のエクササイズ、股関節と足部の協調した動きを促すバランストレーニングなど)が大切です。

    2つ目は、股関節中心位置での動きを促す事です。股関節の中心が外側に移動している事で、股関節に加わる力が増加するため、股関節周囲筋のバランス回復だけでなく、関節が安定した位置関係で立ったり・歩く事が大切です。この場合は、股関節の筋肉のバランスや長さの関係を評価して、股関節に対するインナーマッスルをエクササイズを行う事が重要です。

    3つめは、早期段階からの介入の重要性です。本研究の対象は、年齢が若く、変形が軽度な発育性股関節形成不全患者群のため、早期段階からの筋機能評価と介入が、後の変形性股関節症への進行抑制につながること可能性があります。加えて股関節痛の有無にかかわらず、構造的に発育性股関節形成不全を持つ方では、定期的なチェックが望ましいと考えられます。

    当センターでは、発育性股関節形成不全・変形性膝関節症をお持ちの方で、外来リハビリテーションが処方されていない方、また医療保険での算定日数の影響により外来リハビリテーションが終了されている方、外来リハビリテーションと並行してリハビリテーションの実施をご希望される方に対して、最適と考えられる施術・コンディショニングをご提案しています。

    ご興味のある方は、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。
    どうぞよろしくお願いいたします。

    理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
    Certified Mulligan Practitioner(CMP) / マリガンコンセプト認定理学療法士
    LSVT®BIG認定セラピスト BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
    津田 泰志

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