フィジオセンターでは、変形性股関節症や大腿骨寛骨臼インピンジメントなどの症状に悩む方へ向けて、定期的にブログにて情報発信を行っています。今回は、変形性股関節症をお持ちの方々の、痛みの長期的な経過についての研究をご紹介します。
□研究の概要
変形性股関節症をお持ちの方々の、主な症状の一つが症状が「痛み」ですが、その痛みの現れ方や経過には個人差が大きく、軽度の痛みが長期間続く方もいれば、痛みに波(ゆらぎ)がある方もいます。
本研究(van Berkelら, 2022)は、オランダで実施された「CHECK研究(Cohort Hip and Cohort Knee study)」のデータを用い、初期の変形性股関節症をお持ちの495名を対象に10年間追跡し、痛みの経過と「ゆらぎ」に着目しました。特に、どのような基礎的な背景が「痛みのゆらぎ」と関連しているのかを調査しています。
□研究の結果
10年間の追跡で、痛みのパターンは以下のように分類されました:
・痛みのゆらぎが少ない群:全体の63%
・このうちの、44%が痛み軽減傾向
・35%が痛み安定
・22%が痛み悪化
・臨床的に意味のあるゆらぎ群:全体の37%
・43%が痛み軽減
・29%が安定
・29%が悪化
ここでいう「痛みのゆらぎ」とは、痛みの数値(数値評価スケール:NRS 0〜10)の変動幅が1ポイント以上ある場合を指します。この変動幅は「臨床的に意味のある変化」とされ、患者さんの生活の質や治療方針にも影響する重要な指標です。
□痛みのゆらぎと関連する要因
統計解析の結果、以下のような基礎的な要因が「痛みのゆらぎ」と有意に関連していました:
・痛みの強さ(NRSスコア)が高い
・「痛みの変換(pain transformation)」というコーピングスタイルを多用。これは「痛みがないふりをする」「気にしないよう努める」など、痛みを頭の中で別のものとして捉える対応法です。
・併存疾患(comorbidities)の数が多い。例えば、高血圧や糖尿病、腰痛など、股関節以外の慢性疾患を多く抱えている状態です。
・鎮痛薬(例:NSAIDsなど)の使用あり
・高感度C反応性タンパク(hs-CRP)の値が高い。hs-CRPは体内の慢性炎症の程度を表す血液マーカーで、関節の炎症とも関係しています。
・一方重要な点として、X線で確認される関節の変形や、臨床診断基準に基づく変形性股関節症の診断は、「痛みのゆらぎ」とは関連が見られませんでした。
□臨床場面での応用としては以下の内容の事が考えられます。
・ 痛みの「平均値」だけでなく「変動」にも注目も注目する事です。日々のリハビリテーションで行う痛みの評価では、平均値に注目しがちですが、日によって大きく変動するかどうかも重要な情報です。変動が大きい方は、炎症や心理的背景、日常生活習慣が影響している可能性があり、包括的な評価が大切です。
・「変形=痛み」ではないという可能性に着目する事です。画像所見上の変形があっても痛みのゆらぎがない方もいれば、変形が軽度でも痛みが強く出る方もいます。つまり、「変形の程度=痛みの程度」ではなく、「患者ごとの痛みの体験」に基づく個別対応が重要です。これは、痛みを出す組織が必ずしもレントゲン画像で確認できる関節の変形によるものだけではないことを示します。例としては、関節包や筋肉、筋肉の間にある組成結合組織などが該当します。
□まとめ
今回紹介したvan Berkelらの研究は、変形性股関節症における「痛みの変動」に注目した貴重な調査です。10年間の追跡で、大多数は「安定もしくは軽快傾向」にある一方、約4割には「臨床的に意味のあるゆらぎ」が確認されました。
当センターでは、変形性関節症・大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)をお持ちの方で、外来リハビリテーションが処方されていない方、また医療保険での算定日数の影響により外来リハビリテーションが終了されている方、外来リハビリテーションと並行してリハビリテーションの実施をご希望される方に対して、最適と考えられる施術・コンディショニングをご提案しています。
ご興味のある方は、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。
どうぞよろしくお願いいたします。
理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP) / マリガンコンセプト認定理学療法士
LSVT®BIG認定セラピスト BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志