脊柱側弯症の保存療法において、装具の果たす役割はますます重要性を増しています。その中で、Chêneau(シェノー)型装具は、単なる湾曲角度の抑制にとどまらず、脊柱と体幹の立体的な再構築を目指す、先進的な設計思想に基づいた装具です。
🔸 三次元的な補正構造 ── 形状と配置が導く力の方向性
この装具の最も大きな特長は、側弯症によって生じる三次元的な変形(側方湾曲・回旋・矢状面の変化)に対応した補正力を有している点です。装具本体の設計においては、以下の三つの力学原則が中核となっています。
- 三点支持による側方湾曲の補正
シェルの特定箇所に形成された加圧領域が、体幹の突出部と周辺構造に対しバランスよく力を加え、正中方向への安定した補正力を生み出します。 - 回旋変形の修正(regional derotation)
シェル内部の形状設計により、脊柱のねじれに対して反対方向への回旋解除力を作用させます。この力は、左右対称ではなく、立体的に配置された面構造を通じて誘導されます。 - 矢状面アライメントの回復
腰椎の前弯と胸椎の後弯といった**生理的な脊柱ライン(sagittal profile)**の再建にも配慮された構造で、装具全体が体幹を自然な姿勢へと導きます。
このように、シェルの押圧面(加圧部)と解放面(拡張部)とのコントラストによって、身体全体に三次元的な力が適切に分布されるよう工夫されています。
🔸 完全オーダーメイドによる設計
Chêneau(シェノー)型装具は、患者の個別の側弯パターンと体幹形状に応じて一人ひとりに合わせて設計・製作されます。
その過程では、単に装具を体にフィットさせるのではなく、どの部位にどの方向から力を加えるか/逃がすかを緻密に計算して、シェルの形状が調整されます。
特に、加圧が必要な部位にはシェル自体の内側形状に隆起・斜面が設けられ、反対に組織の移動や呼吸運動、成長を妨げないように空間的余裕を持たせたエリア(拡張スペース)が設けられます。
このような形状設計の巧妙さが、Chêneau(シェノー)型装具の実質的な「矯正力」を生み出しているといえるでしょう。
🔸 外見上の目立ちにくさと軽量性にも配慮
Chêneau型装具は、他の従来型の側弯装具(たとえばBoston型など)と比較して、外見上の目立ちにくさが非常に優れているという点も大きな利点です。
装具の厚みや張り出しを極力抑えた形状設計により、衣服の下に装着しても体型への影響が少なく、特に思春期の患者にとって心理的な負担の軽減にもつながります。

また、全体的に軽量化された素材と構造が採用されており、長時間の装着でも疲労感が少なく、装着時間の順守(コンプライアンス)を促進する要因にもなっています。
🔸 力の伝達は「面」で決まる
この装具の押圧構造は、従来の「パッドを挿入する」という発想とは異なり、シェル自体の面構造(形状と角度)によって力が伝達されることに重点が置かれています。
たとえば、体幹の突出部に対しては緩やかに傾斜した押圧面が形成されており、そこからの力が回旋方向および矢状面方向の両方に作用します。
このとき、装具の反対側に設けられた解放空間が身体の再配置(再整列)を受け入れる余白として機能することで、無理のない補正が可能となるのです。
つまり、装具は単に「押す」のではなく、「誘導し、導くように補正する」構造だといえるでしょう。
🔸 ランケ分類に基づく標準化と個別最適化
シェノー装具の設計には、13パターン(前額面)+3パターン(矢状面)の一定の標準化が図られており、かつ患者ごとの個別最適化も同時に追求されています。
この分類は、装具設計だけでなく、理学療法との併用(例:Schroth method, シュロス法)においても一貫性を持たせる基盤となっています。
この分類は、装具設計だけでなく、**理学療法との併用(例:Schroth法)**においても一貫性を持たせる基盤となっています。
✧ おわりに
Chêneau(シェノー)型装具は、「目立ちにくく、軽く、よく効く」──
この3拍子を高いレベルで兼ね備えた装具療法の選択肢として、今後さらに普及が期待されます。
その効果を最大限に発揮するためには、高度な設計技術と、患者・医療者の協働体制が不可欠です。
見た目の印象だけでなく、その中に秘められた力学的ロジックと治療哲学にこそ、真の価値があります。
Chêneau(シェノー)装具の作成をご希望の方は、ご相談からお受けしております。もしご興味がございましたら、フィジオセンター(理学療法士:シュロス側弯症セラピスト)の大田までご連絡ください。
東京慈恵医科大学病院E棟2階 フィジオセンター
お問い合わせ先:info@physiocenter.jp
電話:03-6402-7755
理学療法士 シュロス側弯セラピスト 大田