変形性股関節症をお持ちの方の運動療法では、関節に過度な荷重をかけずに筋活動を促す事のできる運動が推奨されます。その中で「水泳」は浮力の作用により股関節の負担が少なく、代表的な運動の一つとされています。しかし、水泳といっても平泳ぎ・クロール・背泳ぎ・バタフライなど種目ごとに関節運動の特徴が異なり、股関節への負担も一様ではありません。
水泳の種目による股関節の負担については、コンセンサスは得らえていないようですが、近年研究報告がいくつかみられますので、各泳法における股関節への力学的負担や関節運動の特徴を比較し、変形性股関節症のリハビリテーションにおける種目選択のの一助となればと考えています。
【種目別の特徴と股関節への影響】
① 平泳ぎ:
・平泳ぎは、股関節外旋・外転・屈曲・内転が周期的に繰り返される泳法です。特に「キック動作」において、股関節の外旋位での伸展および内転運動が強調されます。
・注意点:外旋位での伸展は、関節前方構造(関節唇前方部・腸腰筋滑液包)に圧迫ストレスを与える可能性があります。また、内転運動が強く出ると、大腿骨頭が寛骨臼前上方に接触しやすく、前方インピンジメントを誘発するリスクもあります。
・利点:一方で、水の抵抗を利用した中殿筋や内転筋群の協調的強化が可能です。
② クロール:
・クロールでは、股関節の屈曲-伸展運動が中心となり、動作の多くは体幹の回旋運動と連動しています。
・注意点:股関節の伸展制限を背景に過度な腰椎伸展や骨盤前傾を伴うフォームでは、腰椎伸展のメカニカルストレス増加により腰痛の原因となる可能性があります。
・利点:下肢の交互キックは比較的小振幅で行われるため、股関節の可動域変化が少なく関節圧が上昇しにくいという特徴があります。また、体幹回旋との協調運動が促す事が可能です。適切なフォーム指導により、クロールは最も安全性が高く、持久的運動能力の維持にも適した泳法といえます。
③ 背泳ぎ:
・背泳ぎは、浮力を最大限に活かした泳法で、股関節の伸展位保持付近での運動が中心です。
・注意点:肩甲帯の動きに制限がある方や、体幹回旋が苦手な方では代償的な腰椎伸展が生じる場合があります。そのため、体幹安定性の確保と骨盤の中間位保持を意識することが重要です。
・利点:関節の圧縮力が最も少なく、股関節伸展筋群(大殿筋・ハムストリングス)の協調的活動が自然に促される点が特徴です。また、仰臥位姿勢のため重力負担がほぼゼロとなる事が利点です。
④ バタフライ:
・バタフライは、全身の連動性を必要とする高度な泳法で、股関節にも大きな運動範囲と筋出力が要求されます。
・注意点:この動作は股関節前方の軟部組織を強く牽引し、寛骨臼前方縁や関節包前部へのストレスが増大するため、変形性股関節症をお持ちの方には特にお勧めできない種目となります。競技志向の方を除き、実施は避けるのが安全です。
【まとめ】
変形性股関節症をお持ちの場合、水中運動を取り入れる場合に、股関節への力学的ストレスを正しく理解して症状に応じて水中運動を適切に選択することが、機能維持と疼痛管理に大切です。フィジオセンターでは、水中運動・地上で行う運動を組み合わせた包括的なリハビリテーションを通じて、その方にに最適な運動戦略を提案しています。
変形性股関節症・発育性股関節形成不全・大腿骨寛骨臼インピンジメントなどをお持ちで、医療機関で外来リハビリテーションを受けられない方や、保険制度上リハビリが終了してしまった方、並行して追加のリハビリを希望される方には、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。どうぞよろしくお願いいたします。
理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/マリガンコンセプト認定理学療法士
LSVT®BIG認定セラピスト BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
TEL 03-6402-7755
津田 泰志