股関節は体重を支える主要な関節の一つであり、その安定性は立位・歩行動作のすべてに関わります。変形性股関節症をお持ちの方の場合、関節軟骨の摩耗だけでなく「関節不安定性(Instability)」が進行や症状の出現に大きく関与していることが、近年の研究で明らかになっています。
本日のブログでは、関節不安定性のメカニズム、変形性股関節症との関連、そしてフィジオセンターで行っているアプローチ方法について解説します。
□ 関節不安定性とは
関節不安定性とは、関節面が正常な可動範囲内で安定して接触を保てない状態を指します。股関節では、大腿骨頭と寛骨臼の適合性が低下し、関節包や靭帯、筋肉による支持機構が十分に働かないことで、動作時や関節運動時痛に「ズレるような感覚」や「抜ける感じ」が生じます。
元々の股関節の安定性は大きく以下の3つの要素で構成されています。
1つ目は、構造的安定性 (骨の形態) です。寛骨臼の被覆角度や大腿骨頸部前捻角や頚体角の角度が適切であることが前提となります。臼蓋形成不全などの骨形態異常がある場合、関節面の接触面積が減少し、力学的ストレスが集中しやすくなります。
2つ目は、受動的安定性(靭帯や関節包)です。腸骨大腿靭帯を中心とした靭帯や関節包は、過剰な関節運動を防ぐ重要な構造です。これらが弛緩または損傷すると、関節の遊び(joint play)が増加し、動作中に不安定性が出現する事があります。
3つ目は、動的安定性(筋肉の作用)です。中殿筋や小殿筋、腸腰筋、Iliocapsuralisなどが骨頭を寛骨臼中央へと押し込む作用が関節の求心位を保つ事で、関節の適合性が保たれます。この筋活動が低下すると、動作ごとにわずかなズレが生じ、微細な摩耗が進行します。
□ 変形性股関節症と不安定性の関係
変形性股関節症では、軟骨の摩耗が進行する過程で関節構造が変化し、不安定性がさらに増大します。これにはいくつかの特徴的なメカニズムがあります。
1つ目は、靭帯・関節包の弛緩です。慢性的な炎症や変形によって関節包が伸張し、靭帯による張力が低下します。これにより、股関節がわずかに外側・前方へ偏位し、動作時に「安定しない感覚」や「ぐらつき」を訴える原因となります。
2つ目は、求心位を保つ股関節のインナーマッスルの機能低下です。中殿筋・小殿筋・腸腰筋・深層外旋六筋、など股関節のインナーマッスルが上手に働かないと、関節内で骨頭が偏位し、関節軟骨への局所的なストレスが増大します。特に、片脚立位や方向転換動作での疼痛が顕著になります。
3つ目は、疼痛と不安定性の悪循環です。疼痛による防御性収縮や運動回避によって筋力がさらに低下し、支持機構が脆弱化します。その結果、安定性が失われ、痛みが増すという悪循環が形成されます。
このように、変形性股関節症では単に「軟骨がすり減る」というだけでなく、「不安定性」が病態を複雑化させ、機能障害を助長する大きな要因となります。
□ フィジオセンターでのアプローチ
フィジオセンターでは、股関節の不安定性を多角的に評価し、個々の状態に応じた運動療法を提供しています。
1つ目は、レッドコードを用いた股関節のインナーマッスルのエクササイズです。レッドコード(Redcord)を使用し、重力の影響を最小限にした状態で股関節のインナーマッスルの再教育を行います。スリングによる部分免荷下で動作を行うことで、関節内圧を過剰に高めることなく、協調的な働きを促します。
2つ目は、 骨盤の寛骨臼と大腿骨頭アライメントの評価と修正です。立位や歩行時の骨盤の傾き、骨盤帯の回旋、股関節軸の位置関係を詳細に評価します。もし骨盤が後傾位、または過剰に外旋している場合、求心位を保ちにくくなります。そのため、体幹と股関節を中心とした位置関係を確認し筋バランスを修正します。
3つ目は、補助具の使用や日常生活動作の動き方の確認と修正です。関節の不安定性が強い場合や、疼痛が強い時期には、T字杖やノルディックポールの使用を一時的に提案することもあります。荷重を分散し、関節内の圧を減らすことで、股関節・体幹のインナーマッスルのエクササイズをより負担が少なく、安全に継続することが可能になります。また、椅子の高さ調整や立ち上がり動作など、生活動作上の工夫も合わせて指導します。
□ まとめ
股関節の安定性は、単に筋力の問題だけでなく、骨形態・靭帯機構・筋バランスなど多くの要素が関与しています。変形性股関節症では、このバランスが崩れることで関節不安定性が生じ、痛みや動作制限が増悪します。
フィジオセンターでは、変形性股関節症・発育性股関節形成不全・大腿骨寛骨臼インピンジメントなどをお持ちで、医療機関で外来リハビリテーションを受けられない方や、保険制度上リハビリが終了してしまった方、並行して追加のリハビリを希望される方には、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。どうぞよろしくお願いいたします。
理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/マリガンコンセプト認定理学療法士
LSVT®BIG認定セラピスト BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
TEL 03-6402-7755
津田 泰志