過去のブログでも述べたように、股関節の安定性や可動性を維持するうえで、腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)は重要な役割を担っています。特に変形性股関節症の方では、股関節周囲筋のバランスが崩れ、腸腰筋が十分に働かないことで「歩行時の脚の振り出しが重い」「段差を上がるときに足が上がりにくい」「腰や鼠径部に違和感がある」といった症状がみられることがあります。
本日のブログでは、「変形性股関節症における腸腰筋の機能低下メカニズム」と「腸腰筋を選択的に活性化するためのエクササイズ」について、フィジオセンターでのアプローチ方法を交えて解説します。
□ 腸腰筋機能低下のメカニズム
腸腰筋は体幹と下肢をつなぐ唯一の筋群であり、姿勢保持と股関節前面の安定性の保証、股関節屈曲運動などに関与します。しかし、変形性股関節症では以下のような要因により、その機能が低下することが多く見られます。
1つ目は、痛みによる抑制です。股関節前面の疼痛や関節包・滑膜の炎症があると、腸腰筋が反射的に抑制され、筋活動が低下します。その結果、股関節屈曲時に大腿直筋などの表層筋が代償的に働き、鼠径部の違和感や張り感につながります。
2つ目は、骨盤・腰椎アライメントの変化です。骨盤が前傾または後傾しすぎると、腸腰筋の長さ‐張力関係が崩れます。特に股関節前面の不安定性を補うため、長期間骨盤が過剰に前傾している場合は、筋肉の長さが短縮して、可動域の制限や適切な収縮が難しくなる事があります。
3つ目は、体幹深層筋(インナーマッスル)との協調不全です。腸腰筋は腹横筋・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋群などと協調して体幹を安定化しますが、この連携が崩れると、股関節の求心位が保てず、股関節の動きが不安定になります。特に腹横筋の遅延収縮は腸腰筋の力発揮に影響し、脚を上げた際に骨盤が引き上げられるような、腰方形筋などの腰部の筋肉が働く代償動作が出現します。
□ 腸腰筋活性化のポイント
腸腰筋を効率的に働かせるためには、「体幹の安定化」と「骨盤の中間位保持」が重要となります。単に脚を大きく持ち上げるだけの動作では、大腿直筋や腹直筋の活動が優位になり、腸腰筋を十分に使うことができません。
選択的に腸腰筋を働かせるためのポイントは以下の通りです。
1つ目は、体幹深層筋(インナーマッスル)の先行した収縮を伴う事です。 腹圧を高めて腰椎や骨盤帯を安定化させることで、腸腰筋が股関節から体幹を引き寄せる方向に収縮しやすくなります。
2つ目は、骨盤帯の安定を保ったまま股関節を動かす事です。骨盤帯が大きく動いてしまうと二関節筋である大腿直筋が主働となり、腸腰筋の選択的収縮が妨げられます。
3つ目は、小さな動きから始める事です。痛みや股関節の不安定性がある場合は、まず非荷重位(仰臥位や四つ這い位)で小さな運動範囲からエクササイズを始め、コントロールできる範囲を徐々に広げるように実施します。
□ フィジオセンターでのアプローチ
フィジオセンターでは、腸腰筋の選択的活性化を目的に、以下のようなエクササイズを実施する事があります。
1つ目は、仰臥位でのドローイン+片脚持ち上げエクササイズです。仰臥位で膝を軽く曲げ、ドローインで腹圧を保持したまま、片脚をゆっくりと持ち上げます。このとき骨盤の傾きが生じないように注意します。腸腰筋が体幹を安定させつつ股関節を屈曲する感覚を養います。
2つ目は、立位での骨盤安定下+股関節屈曲です。壁や手すりを支えに、片脚立位を保持しながら反対側の股関節を軽く屈曲します。骨盤を固定し、腸腰筋が体幹を安定させながら下肢を持ち上げる感覚を再現します。
これらのエクササイズを通じて、腸腰筋と体幹深層筋(インナーマッスル)の協調性を高め、股関節前面の安定性と可動性の両立を図ります。
□ まとめ
変形性股関節症における腸腰筋の活性化は、単なる筋力トレーニングではなく、体幹の安定化と骨盤‐股関節の協調性を重視したアプローチが重要です。痛みや代償運動により、腸腰筋の収縮タイミングや働く方向が乱れている場合、段階的なエクササイズの実施が必要不可欠です。
変形性股関節症・発育性股関節形成不全・大腿骨寛骨臼インピンジメントなどをお持ちで、医療機関で外来リハビリテーションを受けられない方や、保険制度上リハビリが終了してしまった方、並行して追加のリハビリを希望される方には、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。どうぞよろしくお願いいたします。
理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT®BIG認定セラピスト
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755