変形性股関節症をお持ちの方の場合、痛みや関節可動域制限、歩行障害を引き起こす疾患です。そのような中で、日常生活の中でも「買い物で荷物を持つ」動作は避けられませんが、この動作が股関節への負担に大きく関わっていることは意外と知られていません。本日のブログでは、変形性股関節症における買い物の荷物の持ち方と、股関節への力学的影響、そしてフィジオセンターでの実践的なアドバイスについて解説します。
□ 荷物を持つときに股関節へかかる負担
股関節は体重を支える「荷重関節」であり、静止立位でも体重の約2.5〜3倍の力が関節面に作用すると言われています。さらに、荷物の持ち方によっては重心が偏位し、片側の股関節に過剰な荷重が集中することがあります。特に変形性股関節症をお持ちの方では、軟骨の摩耗や関節裂隙の狭小化により、小さな荷重の偏りでも痛みや炎症が起こりやすい状態となっています。
例えば、片手に重い買い物袋を持ってしまうと、反対側の股関節にかかる力は約1.5〜2倍に増加するという報告もあります。これは、身体が重さに体幹や反対側の股関節を中心とした下肢が良い姿勢で体重を支えられず、体幹を側屈(体の側方の傾き)することが原因です。この動きにより、体重支持側の中殿筋や外側にある組織への負担が増し、筋疲労や痛みを誘発しやすくなります。
□ 荷物の持ち方による負担の違い
荷物の持ち方にはいくつかのパターンがあり、それぞれ股関節への負担が異なります。
1つ目は、 片側で持つ場合です。買い物袋を片方の手で持つと、反対側の股関節に過剰な負担が集中します。特に痛みのある側と反対側で荷物を持つと、骨盤が傾き、寛骨臼と大腿骨頭の臼蓋被覆被覆が低下する事が多く、疼痛が増悪する場合があります。反対に、痛みのある側の手で荷物を持つと、重心が患側に寄り、骨盤の反対側への傾きを抑えやすく、股関節への負担が軽減できるという報告もあります。これは「T字杖を患側の反対手で持つ」ときの力学とは逆の考え方になります。
2つ目は、両手で分散して持つ場合です。左右均等に荷物を分けて持つと、身体の重心が中央に保たれ、股関節や脊柱への負担が減ります。ただし、片側の筋力や安定性が低下している場合には、バランスを崩すリスクがあるため、荷重配分は慎重に行う必要があります。
3つ目は、 リュックサックで持つ場合です。両肩で背負うリュックは、荷重を身体の中心線上に保ちやすく、股関節への左右差を最小限に抑える方法です。ただし、重量が重すぎると、体幹が後方へ傾く力が強くなるため、股関節の前方組織にかかる負担が増加する可能性があり、軽量化と正しい背負い方が重要になります。
□ フィジオセンターでのアプローチ
フィジオセンターでは、荷物動作や買い物動作の指導も以下のポイントを確認しながら、施術・コンディショニングを進めています。
1つ目は、立位・歩行時の抗重力伸展活動です。股関節に負担の少ない形で荷物を持つ前提として、立位や歩行を良い姿勢、つまり重力に適切に対応した位置関係をとる事が重要です。猫背や骨盤が後傾している場合は、荷物を持つ事でより不良姿勢につながる可能性が高いためです。
2つ目は、股関節の求心位を保つ事です。荷物を両手に適切に分配して持ったとしても、基本的には股関節に加わる負担は増加する可能性が高まります。そのため、体重を支える際に特にどの股関節のインナーマッスルを働かせる必要性が高いかを、動作の修正や徒手的に行う事の出来る検査を行い、優先順位を決めてコンディショニング・アプローチを行います。
□ まとめ
変形性股関節症における「荷物の持ち方」は、単なる生活の工夫ではなく、股関節への力学的負担を左右する重要な要素です。片側持ちでは基本的には、患側側の手で荷物を持ち、股関節への負担を軽減し、できるだけ身体の中心線上でバランスを取る持ち方がお勧めです。また、筋力や安定性に不安がある方は、リュックやキャリーバッグ、ショッピングカートなどの補助具を活用することで、日常生活の安全性が向上します。
フィジオセンターでは、変形性股関節症・発育性股関節形成不全・大腿骨寛骨臼インピンジメントなどをお持ちで、医療機関で外来リハビリテーションを受けられない方や、保険制度上リハビリが終了してしまった方、並行して追加のリハビリを希望される方には、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。どうぞよろしくお願いいたします。
理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT®BIG認定セラピスト
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755