変形性関節症(股関節・膝関節)と運動療法の重要性について

変形性関節症(股関節・膝関節)と運動療法の重要性について

~初期対応が将来の関節を守る鍵になる~

変形性関節症は、加齢や関節の負荷の蓄積などによって関節軟骨がすり減り、関節周囲の骨・靭帯・滑膜などに二次的変化を生じる疾患です。世界的には約4億人が罹患しており、中高年期以降に増加する代表的な運動器疾患として知られています。特に股関節と膝関節の変形性関節症とは、痛み・関節可動域制限・歩行能力の低下をもたらし、日常生活の自立度やQOL(生活の質)を大きく左右します。

□ 変形性関節症と初期治療の重要性

国際的なガイドラインでは、教育(変形性関節症に対する理解)・運動療法・体重管理(適切体重の管理)の3つの要素を『第一選択治療』として推奨しています。この段階では、外科的手術ではなく、生活習慣や運動習慣を整えることで痛みを軽減し、関節機能の維持・改善を目指します。変形性関節症をお持ちの方々が、病態を理解して自ら関節を守る行動をとれるよう支援する、『自己管理』も重要です。

しかし現状では、手術を検討する前にこれらの、初期治療・初期対応を十分に実施している対象者の方は決して多くなく、運動介入の適切なタイミングを逃してしまうケースも報告されています。こうした課題に対して、スウェーデンの研究チームが行った大規模データ解析が、運動療法の重要性を裏づけるエビデンスとして注目されています。

□ 最新研究が示す『運動療法の継続効果』

スウェーデン・リンシェーピング大学とルンド大学の共同研究グループによる観察研究では、44,311名の股関節および膝関節の変形性関節症を持つ方を対象に、教育・運動療法を組み合わせた3か月間の標準プログラムの効果を5年間追跡した内容です。この研究は、スウェーデン国内800以上の理学療法施設が登録す『Swedish Osteoarthritis Register(SOAR)』を用いた、世界的にも最大規模の調査です。

研究では、治療後の痛みの変化を指標として、痛みの評価で2段階以上改善した群を“反応群”、それ未満を“非反応群”と分類し、その後の5年間における人工関節置換術(股関節・膝関節)の発生率を比較しました。

□主要な結果
・変形性股関節症では、反応群の35%が手術へ進行したのに対し、非反応群では48%が手術を受けていました。
・変形性膝関節症では、反応群の14%が手術へ進行したのに対し、非反応群では20%が手術を受けていました。

統計解析の結果、反応群では手術に進むリスクが股関節で約40%、膝関節で約60%に減少していました。この結果は、『痛みの軽減=症状コントロールの達成』が将来的な手術リスクの低下に結びつくことを示しています。すなわち、初期段階での教育と運動療法によって自らの身体を適切に動かし、痛みを抑えることが、長期的に関節を守る最も重要な戦略であるといえます。

□ 運動療法が関節を守るメカニズム

運動療法の効果は、単に筋力をつけることにとどまりません。継続的な運動によって以下のような生理的・構造的な変化が起こることが知られています。

1つ目は、関節軟骨への代謝促進です。関節運動により滑液循環が促進され、軟骨への栄養供給が向上します。

2つ目は、筋力・筋質の維持です。大腿四頭筋・殿筋群・腸腰筋などの筋力維持は、関節安定性の確保に不可欠です。

3つ目は、荷重分散の改善です。適切な筋活動によって、立位・歩行時の関節面への局所的ストレスが減少します。

4つ目は、疼痛抑制機構の賦活です。有酸素運動や中等度負荷トレーニングは、エンドルフィン分泌や中枢性疼痛抑制系を活性化し、慢性的な痛みの軽減に寄与します。

こうした複合的な作用により、運動療法は『関節のメカニカルストレスを減らして、かつ生理的な回復力を高める』二重の効果をもたらすと考えられています。

□ フィジオセンターでの実践的アプローチ

当センターでは、変形性股関節症・膝関節症をお持ちの方に対し、科学的根拠に基づく包括的な運動療法を提供しています。

1つ目は、痛みの軽減と関節負荷の最適化です。股関節では大殿筋・中殿筋・腸腰筋、膝関節では大腿四頭筋、特に膝関節を安定させる内側広筋を中心に、軽〜中負荷での筋力トレーニングを行います。立位や片脚支持など、体重をかける実動作に近い肢位での練習を実施します。

2つ目は、姿勢・動作パターンの修正です。骨盤アライメントや下肢のアライメント(位置関係)を評価し、歩行や階段動作における不適切な荷重を修正します。特に高齢者の方では、骨盤後傾や体幹伸展制限などが関節への負荷を増大させるため、「動きの質」を整えることを重視しています。

3つ目は、セルフエクササイズと生活環境の調整です。在宅で行えるストレッチやエクササイズを習慣化し、活動量の維持を支援します。必要に応じてT字杖やノルディックポールなどの補助具を提案し、安全かつ継続的に運動量を保つことを目指します。

□ まとめ:運動を“治療”として続ける意義

今回紹介した研究では、初期治療(教育+運動療法)で痛みが改善した患者は、その後5年間で人工関節手術に至る確率が有意に低下していました。痛みが強くなってからではなく、“可能な限り早い段階(発症早期)”から動くことが何より大切です。

フィジオセンターでは、変形性股関節症・変形性膝関節症をお持ちで、医療機関で外来リハビリテーションを受けられない方や、保険制度上リハビリが終了してしまった方、並行して追加のリハビリテーションを希望される方には、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。どうぞよろしくお願いいたします。

理学療法士 保健医療科学修士号 認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT®BIG認定セラピスト
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志

フィジオセンター
TEL:03-6402-7755

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