変形性関節症は、関節軟骨の摩耗や骨変化を特徴とする代表的な運動器疾患であり、特に股関節と膝関節が発症頻度が高い部位です。中年期(40〜50代)で症状が出現した場合でも、70〜80代と加齢を重ねる過程で、運動療法をある程度の頻度で長期的に継続する事が大切です。
今回は、ポルトガルで行われた大規模コホート研究をもとに、変形性関節症(変形性股関節症・変形性膝関節症)における「運動を続けること」の科学的意義と臨床的な実践ポイントを解説します。
□ 運動習慣と身体機能・生活の質の関係
ポルトガルで行われた大規模研究では、股関節および膝関節の変形性関節症をお持ちの1086名を対象に、平均4.7年間追跡調査が行われました。参加者は、運動頻度によって「非実施群(週0回)」「週1〜2回の実施群」「週3回以上の高頻度の実施群」に分類されました。
結果として、週1回以上の定期的な運動を継続していた群では、非運動群と比較して身体機能と健康に関連するQOLが有意に改善していました。特に、週3回以上運動を行った群では、時間経過に伴っても機能低下を最小限に抑え、日常生活動作のの自立性を長期的に維持していたことが確認されています。
さらに、解析では、肥満傾向、合併症、痛み強度などを調整した後でも、「運動頻度が高いほど身体機能とQOLの維持が良好である」という傾向が独立して示されました。これは、運動が単なる筋力トレーニングではなく、痛みの知覚・心理的健康・生活行動の全体に良い影響を及ぼすことを示しています。
□ 加齢変化と変形性関節症への複合的な影響
加齢に伴い、関節を構成する軟骨・滑膜・靭帯・関節包の機能が低下します。また、筋量や筋質の低下(サルコペニア傾向)によって、関節周囲の安定性が損なわれやすくなります。変形性関節症を抱える方にとって、これらの変化は「関節構造変化+筋機能低下+姿勢制御不全」という複合的な負荷として現れ、痛みや可動域制限を助長します。
一方で、定期的な運動はこの悪循環を断ち切る有効で大切な手段です。筋量・筋質を維持することで、関節周囲の安定性を確保し、荷重時の衝撃吸収能力を保つことができます。また、運動は関節軟骨の代謝を促し、関節液循環を改善する作用があり、これが痛みの軽減や関節可動性維持に寄与します。
□ フィジオセンターでのアプローチの例
当センターでは、変形性股関節症・変形性膝関節症の対象者の方に対して、加齢や症状進行を踏まえた長期的視点での運動プログラムを提案しています。具体的には、以下の3つの柱を中心にアプローチを行っています。
1点目は、定期的な運動を継続するためのフォローアップ体制です。定期的な運動を継続するためには、ご自宅で行って頂く、セルフエクササイズを正しく行う事が最も大切です。フィジオセンターはオーダーメイドのセルフエクササイズの提案に加えて、公式ラインなどを使用してクライアントの方からのご質問にも対応できる体制を準備しています。
2つ目は、 筋量・筋質維持を目的とした運動療法です。中殿筋・大殿筋・腸腰筋・大腿四頭筋など、関節を安定させる院内に対して、その方に必要なエクササイズやトレーニングを提案します。
3つ目は、活動量の維持・変形をお持ちの関節の負担の少ない生活習慣の調整です。ご年齢を重ねられると活動量の低下が目立つ場合があり、それが筋力低下・変形をお持ちの関節可動域制限を助長します。関節の機能や痛みの状態にも関わりますが日常生活において、1日15〜30分程度のウォーキングや自重運動を継続することが推奨されます。痛みやバランスに不安がある場合は、T字杖やノルディックウォーキングポールの使用を検討します。また、長時間同じ姿勢を避け、30分程度に1度は姿勢を変えて、少し体を動かす事も関節保護の観点から重要です。
□ 継続が生む「長期的な効果」
運動療法は「短期的な治療」ではなく、長期的に継続してこそ意味を持つ生活習慣によるアプローチです。本日、ご紹介した研究では、運動を習慣化していた人々は、5年近い追跡期間においても変形性股関節症・変形性膝関節症の機能・生活の質の低下が最小限にとどまり、運動を行わなかった群との差が年々拡大していく傾向が見られました。
□ まとめ
変形性股関節症・変形性膝関節症は、加齢に伴う自然な身体変化と密接に関係しています。しかし、運動をやめずに継続することによって、筋量・筋質・姿勢制御・QOLのすべてに対して重要な介入である事が科学的に示されています。
当センターでは、エビデンスに基づいた運動プログラムをもとに、ご利用頂くクライアントの方、個々の状態・痛みの程度・生活環境に合わせたアプローチを提供しています。また、変形性股関節症・変形性膝関節症をお持ちで、医療機関で外来リハビリテーションを受けられない方や、保険制度上リハビリが終了してしまった方、並行して追加のリハビリテーションを希望される方には、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。どうぞよろしくお願いいたします。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755