変形性関節症と殿筋群(小殿筋・中殿筋)への運動介入の効果について

変形性関節症と殿筋群(小殿筋・中殿筋)への運動介入の効果について

変形性股関節症は、加齢や力学的負荷の蓄積により関節軟骨が摩耗し、骨・靭帯・滑膜などに二次的変化を生じる疾患です。経過ともに痛み、関節可動域制限、歩行スピードやストライド(歩幅)の低下、さらには跛行などの代償動作を引き起こし、生活の質の低下に直結します。国際ガイドラインが示す第一選択介入は、教育(病態の理解)・運動療法・体重管理の3つが挙げられます。

本日のブログでは、殿筋群(特に小殿筋・中殿筋)に焦点を当てた“運動プログラム”の有効性を、示した論文をご紹介しながら解説します。結論を先に記載すると、歩行中の筋活動のタイミングに良い影響が示されました。

□ 初期介入の目的

初期段階での運動療法は「痛みの軽減」「股関節機能の維持・改善」に加え、可能な限り歩行時の力学的ストレス最適化を図ります。特に股関節の外転・側面での安定化を担う、小殿筋と中殿筋は、歩行の立脚期で二峰性の活動パターンを示し、骨盤の安定に重要な役割を果たします。変形性股関節症をお持ちの方では、これらの活動タイミングや振幅がしばしば乱れ、トレンデレンブルグ跛行やデュシャンヌ跛行につながることが知られています。

□ 最新エビデンス:ターゲット運動で小殿筋と中殿筋の筋活動の変化

・研究デザイン
軽度~中等度の変形性股関節症をお持ちの方 22名を殿筋群のエクササイズ介入を行う群とシャム(偽の運動)介入に分けて、12週間の介入前後で歩行中の筋電図を評価しました。
・主要所見
小殿筋後部線維において、立脚後期のピーク振幅が有意に低下し、筋活動がピークになるまでの時間は有意に早期化しました。中殿筋後部線維でも、筋活動がピークになるまでの時間の早期化がみられ、いずれも健常若年者のパターンに近づく方向でした。
・臨床的解釈
小殿筋後部・中殿筋後部は、骨盤の側方安定性や立脚後期のを安定する役割を持つとされています。筋活動がピークになるまでの時間の早期化と過剰振幅の抑制は、筋活動タイミングの正常化と不必要な過剰な筋活動の軽減を示唆しています。

□フィジオセンターでの実際のアプローチについて

1つ目は、活動が過剰となり易い筋肉に対するアプローチです。大殿筋の上部線維・腰部脊柱起立筋・大腿直筋・大腿筋膜張筋などの筋肉は、普段から活動が過剰となり筋の長さが短くなる事が少なくありません。結果として、小殿筋や中殿筋の筋活動が抑制されたり、正しいタイミングで働く事を阻害するため、小殿筋や中殿筋のエクササイズの前に、これらの過剰に活動し易い筋肉に対して、リリースやストレッチを行います。

2つ目は、体幹深層筋(インナーマッスル)のエクササイズです。小殿筋や中殿筋は、骨盤と大腿骨に付着を持つため、これらの筋肉が適切に働くためには、体幹の一部である骨盤帯が安定している事が前提条件となります。そのため、小殿筋や中殿筋の活動を適切に促すために、その方に適切な体幹深層筋のエクササイズを実施します。

3つ目は、小殿筋・中殿筋が働く選択的なエクササイズの実施です。どのような運動がどの筋肉を多く働かせることができるかの研究は数多くありますが、変形性股関節症をお持ちの方の場合、痛みや関節可動域制限、体幹深層筋の機能の影響など、研究データ通りに対象とする筋活動が得られない場合があります。そのため、狙った筋活動が得られるエクササイズを選択して、対象となる筋肉が働きやすい状況を作ってエクササイズを実施します。

□ まとめ

変形性股関節症をお持ちの方に対する運動療法は、単なる「筋力トレーニング」だけでは不十分です。目的となる動作に対して、股関節のなメカニカルストレスの原因となる過剰な筋活動を可能な限り抑制し、不足してる筋肉の活動を高めるアプローチが重要です。

当センターでは、エビデンスに基づいた運動プログラムをもとに、ご利用頂くクライアントの方、個々の状態・痛みの程度・生活環境に合わせたアプローチを提供しています。また、変形性股関節症・変形性膝関節症をお持ちで、医療機関で外来リハビリテーションを受けられない方や、保険制度上リハビリが終了してしまった方、並行して追加のリハビリテーションを希望される方には、ホームページまたはお電話にてお気軽にお問い合わせください。どうぞよろしくお願いいたします。

理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志

フィジオセンター
TEL:03-6402-7755

一覧に戻る
完全予約制
ご予約はこちら