腰椎分離症に対して「体幹を鍛えましょう」という言葉がよく使われますが、実際に重要となるのは単純な筋力強化ではなく、体幹深層筋(インナーマッスル)の適切な再教育です。腰椎分離症では、痛みや動作の癖によって体幹深層筋がうまく働かず、表層筋(アウターマッスル)が代償的に働きすぎることで腰椎に負担が集中します。本日のブログでは、腰椎分離症におけるインナーマッスルの再教育がなぜ重要なのか、そしてどのようなプロセスで再獲得していくべきかを整理して解説します。
□ 腰椎分離症とインナーマッスルの関係とは
腰椎分離症は、腰椎の椎弓に繰り返しの伸展・回旋ストレスが加わることで生じる疲労骨折です。多くの場合、その背景には 多裂筋・腹横筋を中心とした体幹深層筋の機能低下 と、それを補おうとする 脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋)・腹直筋といった表層筋の過活動 が存在します。
体幹深層筋には、腰椎が不要に大きく動きすぎないように「局所の安定性を高める」役割があります。しかし分離症では、痛みや股関節、胸椎・胸郭の柔軟性の低下により深層筋の働きが低下し、その結果として表層筋が過剰に活動する事で、腰椎の伸展方向のストレスが増大する悪循環に陥る事があります。
つまり、腰椎分離症のリハビリテーションにおいて重要なのは、「体幹深層筋(インナーマッスル)が適切に働いているか」、また「表層筋(アウターマッスル)が過剰に強く働きすぎていないか」という、筋活動の質とバランスを整えることです。
□ 体幹深層筋(インナーマッスル)の機能低下が招く問題
体幹深層筋(インナーマッスル)が適切に働かない場合、以下のような問題が生じやすくなります。
1つ目は、 腰椎の安定性が低下して局所のストレスが増大する事です。腰椎は構造的に、伸展方向・回旋方向の負荷に弱いため、深層筋が働かず腰椎が必要以上に動いてしまうと、椎弓部にストレスが集中しやすくなります。
2つ目は、表層筋(アウターマッスル)の過緊張による動作の硬さです。最長筋や腸肋筋などの脊柱起立筋が過剰に働くと腰椎の前弯が過剰に強まり、「反り腰」姿勢になりやすく結果として分離症の症状を引き起こします。
□ フィジオセンターでの評価と再教育のアプローチ
フィジオセンターでは、腰椎分離症に対して医療機関での診断・安静度を踏まえつつ、体幹の筋機能と動作パターンの両側面から評価・介入を行います。以下では、体幹深層筋の再教育を進めるプロセスを、段階別に1つの例を挙げてご紹介します。
・ 急性期:痛みを抑えつつ深層筋を呼び戻す段階
急性期では、骨癒合を妨げない範囲で 腰椎を過度に動かさずに深層筋の活動を再獲得することが重要です。例としましては、腰椎中間位での多裂筋・腹横筋の収縮、横隔膜の機能を高める呼吸のエクササイズなどを実施して、分離を呈している腰椎の負担が加わらない形でエクササイズを実施します。
・ 回復期:深層筋と表層筋の協調性を高める段階
骨癒合が進み、一定の運動が可能になった段階では、インナーマッスルの働きを日常動作の中に統合していきます。例としては、多裂筋・腹横筋と脊柱起立筋の協調性を整えるエクササイズを実施する事、骨盤前後傾のコントロール練習、立位・歩行時の体幹安定性の再獲得などを行い、姿勢と動作の中で深層筋が自然に働く環境をつくることが重要です。
・競技復帰期:スポーツ動作の中で安定性を発揮する段階
部活動・競技復帰を目指す場合では、スポーツ特有の動作で体幹深層筋(インナーマッスル)と表層筋(アウターマッスル)が協調して働くことが重要です。例としては、ジャンプ・ダッシュ・ターン動作での体幹安定性の確認、胸椎・腰椎・股関節・膝・足関節の協調動作の評価、競技特性に応じたフォーム修正などがテーマになります。
□ まとめ
腰椎分離症における体幹トレーニングは、「筋力をつける」だけでは不十分です。大切なのは、体幹深層筋(多裂筋・腹横筋)が正しいタイミングで働くように再教育すること、そしてその働きを日常生活やスポーツの動作に統合していくことが重要です。
体幹深層筋(インナーマッスル)の再教育がうまくいくと、腰椎の微細な安定性が高まり、表層筋の過度な緊張が減少し、分離部へのストレスも大きく軽減されます。
腰椎分離症と診断された方、部活動をしながら腰痛に悩まされている方、医療機関でのリハビリが十分に受けられずお困りの方は、ぜひフィジオセンターにご相談ください。症状の段階に合わせた評価と、科学的根拠に基づいた体幹深層筋の再教育プログラムをご提案いたします。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
03-6402-7755