パーキンソン病は、高齢化社会において増加傾向にある神経変性疾患であり、その症状は患者さんの日常生活に大きな影響を与えます。そのような中、近年の研究により、薬物療法と並ぶ有効な手段として、運動療法が注目されています。
本ブログでは、パーキンソン病の病態生理を理解した上で、なぜ運動がその進行を遅らせ、症状を改善する鍵となるのか、その科学的なメカニズムを解説します。
パーキンソン病の病態生理:脳内で何が起こっているのか?
パーキンソン病の主な原因は、中脳にある黒質という領域の神経細胞が変性・脱落することにあります。この黒質にあるドーパミン作動性ニューロンは、運動の調節に不可欠な神経伝達物質であるドーパミンを産生・放出しています。
1. ドーパミンの欠乏
黒質ニューロンの脱落により、脳内のドーパミン量が減少し、特に運動を計画・実行する重要な部位である大脳基底核における情報伝達がうまく機能しなくなります。
- 症状との関連: ドーパミンが不足すると、大脳基底核の出力経路が過剰に抑制され、運動の開始が難しくなったり(無動・寡動)、筋肉の緊張が高まったり(筋強剛)、安静時の不随意な震え(振戦)といったパーキンソン病の主要な運動症状が現れます。
2. シヌクレインとレビー小体
脱落する神経細胞には、レビー小体と呼ばれる異常なタンパク質の凝集体が見られます。この主成分がシヌクレインというタンパク質です。シヌクレインが異常に凝集し、神経細胞内に蓄積することが、細胞の機能不全につながると考えられています。
3. 酸化ストレスと炎症
病態の進行には、細胞内での酸化ストレスの増加や、それに伴う神経炎症も関与も考えられています。これらは神経細胞のさらなる障害を招き、病気の進行に関与します。
運動療法が作用するメカニズム:運動は「脳の薬」である
現在、「運動はパーキンソン病の進行を遅らせる薬である」という認識が主流になりつつあります。運動は、多岐にわたるメカニズムを通じて、より良い影響を与えます。
1. 神経保護作用と神経可塑性の促進
最も注目されているのは、運動が持つ神経栄養因子の産生促進作用です。
- BDNF(脳由来神経栄養因子): 運動、特に高強度の運動は、BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)などの神経栄養因子の産生を増加させます。BDNFは、「脳の肥料」とも呼ばれ、残存するドーパミンニューロンの生存を助け(神経保護作用)、新しいシナプスの形成や既存の回路の強化(神経可塑性)を促します。
- ドーパミン利用効率の改善: 運動により、脳が既存のドーパミンをより効率的に利用できるようになることが示唆されています。
2. 炎症と酸化ストレスの軽減
定期的な運動は、体内の抗酸化能力を高め、過剰な神経炎症を抑制する効果があります。
- 運動は、炎症を促進するサイトカインの放出を抑制し、脳内の免疫細胞の活動を調整することで、神経細胞にとってより良い微小環境を促します。
3. 症状に対する直接的な効果
運動は、特定の神経回路を刺激・再配線することで、症状そのものを改善します。
- 歩行の改善: トレッドミル歩行やキューイング(視覚・聴覚の合図)を用いた運動は、大脳基底核の機能低下を大脳皮質や小脳などの他の脳領域が代償するのを助け、歩行速度や歩幅の改善につながります。
- 平衡感覚と姿勢の改善: バランス・協調性トレーニングは、固有受容覚や姿勢反射を鍛え、転倒リスクの低減に良い影響を与えます。
- 非運動症状への効果: 運動は、ドーパミン以外の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)の代謝にも影響を与え、うつ症状や不安、睡眠障害などの非運動症状の改善にも寄与します。
4. ドーパミン薬との相乗効果
運動は、ドーパミン補充療法(レボドパなど)の効果を増強し、服薬量やオフ時間を減らす可能性も示唆されています。薬物療法と運動療法は、単独で行うよりも相乗効果を発揮します。
運動の種類と実践のヒント
パーキンソン病の運動療法では、単なる筋力維持・柔軟性向上だけでなく、「チャレンジ」を伴う運動が特に重要とされます。
| 運動の種類 | 主な効果と推奨される理由 |
| 高強度インターバルトレーニング (HIIT) | BDNFの産生を最大化する可能性があり、神経保護作用が期待される。 |
| 歩行/トレッドミル | 歩行能力の改善、心肺機能の維持。リズム的な合図(メトロノームなど)の利用が効果的。 |
| バランス・協調性運動 | 転倒リスクの低減、姿勢制御の改善。 |
| デュアルタスク運動 | 運動と認知課題を同時に行うことで、大脳基底核の機能低下を代償する能力を鍛える。 |
フィジオセンターでの運動: 当センターでは、患者さん一人ひとりの進行度や症状に合わせて、高強度かつチャレンジングな運動を含む個別化されたプログラムを提供し、科学的根拠に基づいたリハビリテーションを実施しています。
フィジオセンターでは、パーキンソン病をお持ちの方の症状に合わせて、その方に最適と考えられる、施術・コンディショニング・エクササイズを提案しています。パーキンソン病の運動症状でお困りの方、定期的なリハビリテーションをご希望される方は、お気軽にお問い合わせください。
※年末年始休業のお知らせ
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理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
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