―「腕を振らない」のではなく「振れなくなる」理由―
パーキンソン病をお持ちの方の歩行を観察すると、歩行時の腕振りが小さい、あるいは消失していることが少なくありません。ご本人からも、「歩きにくい」「体が固まる感じがする」といった訴えとともに、腕振りの減少がみられることがあります。
腕振りは一見すると歩行の不随的な動きように見えますが、実際には歩行の安定性や効率と密接に関係する重要な要素です。本ブログでは、パーキンソン病における腕振り消失の特徴とその背景、さらに運動療法における具体的なアプローチについて解説します。
1.歩行時の腕振りは何のために存在するのか
健常歩行における腕振りは、単なる癖ではなく、
・体幹回旋の補助
・歩行エネルギー効率の向上
といった役割を担っています。特に、下肢の振り出しに伴う体幹回旋に対して、腕振りは捻りの動きを相殺する役割を果たし、安定した歩行を可能にしています。
2.パーキンソン病で腕振りが消失する理由
パーキンソン病における腕振り消失は、単なる「意識不足」や「筋力低下」では説明できません。主な要因として、以下が挙げられます。
① 自動運動制御の障害
歩行や腕振りは本来、自動化された運動です。しかし、基底核機能障害により自動運動生成が低下すると、歩行と上肢運動の協調が失われ、腕振りが減少します。
② 運動の非対称性
パーキンソン病では初期から左右差が生じやすく、片側の腕振り低下が早期徴候として現れることも知られています。この左右差は、歩行の不安定性や方向転換時のリスク増大につながります。
③ 筋固縮と体幹回旋制限
上肢・体幹の筋固縮により、肩甲帯や胸郭の可動性が低下すると、腕振りそのものが物理的に制限されます。
3.エビデンスから見る腕振りと歩行機能
近年の研究では、腕振り消失が単なる見た目の変化ではなく、歩行機能低下の指標であることが示されています。
・腕振りの減少は歩行速度低下と関連する
・腕振りの非対称性は歩行変動性の増大と関連する
・腕振りを促した歩行では、バランス指標が改善する
また、外部キュー(視覚・聴覚)を用いた歩行練習や、上肢運動を組み合わせた介入が、歩行の安定性とリズム性を改善することも報告されています。
4.腕振り消失に対する運動療法の基本的な考え方
腕振り消失への対応として、「腕を大きく振るように指示する」だけでは、十分な効果が得られないことが多くあります。重要な視点は、
・体幹回旋と歩行の協調性を高める
・上肢運動を自動化された動きとして再学習する
・注意資源の過剰使用を避ける
という点です。
特に、体幹と下肢の連動を促す運動や、リズム・テンポを活用した練習は、腕振りを「結果として引き出す」アプローチとして有効です。
5.フィジオセンターでの実践的アプローチ
フィジオセンターでは、腕振り消失を「上肢の問題」として切り離すのではなく、歩行全体の運動制御の問題として捉えることを重視しています。
初期評価では、
・腕振りの左右差・振幅・タイミング
・歩行速度、歩隔、方向転換時の変化
・体幹回旋可動性と肩甲帯の動き
を総合的に評価します。
介入では、
・体幹回旋を伴う上肢・下肢協調運動
・リズミカルな歩行練習
・外部キューを用いた歩行課題
を用いながら、「意識して振る」のではなく、自然に腕が振れる歩行パターンの再構築を目指します。運動量を増やす前に、まず動作の質と再現性を重視し、成功体験を積み重ねながら段階的に負荷を調整していきます。
まとめ
パーキンソン病における歩行時の腕振り消失は、単なる付随的な症状ではなく、運動自動化や協調性低下を反映する重要なサインです。腕振りだけに注目するのではなく、体幹・下肢との連動を含めて評価・介入することが、歩行安定性の改善につながります。
フィジオセンターでは、パーキンソン病に伴う歩行障害に対して、専門的な視点から運動療法を提供しています。歩行に不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755