パーキンソン病の姿勢制御に必要な感覚統合の考え方

パーキンソン病の姿勢制御に必要な感覚統合の考え方

―「視覚・前庭覚・体性感覚」のバランスに対するアプローチ―

パーキンソン病をお持ちの方のリハビリテーションを担当させて頂く際に、「暗い場所でふらつきやすい」「人混みで足がすくみやすい」「動き出しでバランスを崩しそうになる」といったご相談を頂く事があります。

これらは単に「足の力が弱くなった」ことだけが原因ではありません。脳が身体のバランスを保つために行っている「感覚統合」という高度な情報処理プロセスに影響をきたしている可能性が高いのです。

前回のブログでは「体性感覚(足の裏や関節の感覚)」に焦点を当てましたが、今回は視野を広げ、脳がいかにして複数の感覚情報をまとめ上げ、姿勢を制御しているのか、そしてパーキンソン病においてその機能がどう変化するのかを解説します。


1.姿勢制御を支える「3つの感覚」と「感覚統合」

私たちが転ばずに立ったり歩いたりできるのは、脳が以下の3つの感覚情報を瞬時に収集し、統合・処理しているからです。

1.体性感覚:足裏の接地感や、関節がどの程度曲がっているかという情報
2.視覚:自分の身体が空間のどこにあるか、垂直かどうかを目で見る情報
3.前庭覚:耳の奥(内耳)にある器官で感じる、頭の傾きや加速・回転の情報

    「感覚統合」とは? これら3つの情報を、状況に合わせて脳が適切にブレンド(統合)することを指します。 例えば、平らな地面を歩くときは「体性感覚(70%)」を主に使い、暗闇では見えにくいため「視覚」の情報を割合を低下して「前庭覚」と「体性感覚」の比率を高める、といった調整を脳は無意識に行っています。これを「感覚の重みづけ」と呼びます。


    2.パーキンソン病における感覚統合の特徴と課題

    パーキンソン病の方の姿勢制御において、この「感覚統合」には特有の傾向が見られることが、近年の神経科学や理学療法の研究で明らかになっています。

    ① 過度な「視覚依存」:パーキンソン病をお持ちの方では、体性感覚(自分の身体の感覚)の精度が低下しやすいことは以前お伝えしました。脳は信頼性の低い体性感覚の代わりに、信頼できそうな「視覚」からの情報に過剰に頼るようになります。これを「視覚依存」と呼びます。 その結果、「目に見える情報」にバランスが支配されてしまい、複雑な視覚情報(人混みや模様のある床)が視覚に入ってくると、脳の情報処理が追いつかず、逆にバランスを崩したり、すくみ足が出現しやすくなります。

    ② 「感覚の重みづけ」:健常な脳は環境の変化に応じて瞬時に感覚の配分(重みづけ)を変えます。しかし、パーキンソン病をお持ちの方ではこのスイッチの切り替え(柔軟性)が低下していることが報告されています。 例えば、「明るい部屋(視覚情報が優位)」から「急に暗い部屋(体性感覚・前庭覚へ切り替えが必要)」へ移動した際、その切り替えが遅れ、ふらつきが生じやすくなる事があります。

    ③ 前庭覚の処理機能の変調:姿勢の「垂直」を感じ取る前庭覚の処理にも、パーキンソン病特有の変調が生じることがあります。これにより、身体が傾いていても自分では真っ直ぐだと感じてしまう(主観的垂直位のズレ)ことがあり、これが姿勢異常の一因となる場合もあります。


    3.エビデンスから見る感覚統合と運動機能

    感覚統合機能の低下が、実際の動作にどう影響するかについて、多くのエビデンスが示されています。

    ・転倒リスクとの関連:感覚統合能力のスコアが低い患者ほど、過去の転倒歴が多く、将来の転倒リスクも高いことが示されています。特に、不安定な面(体性感覚が不正確になる状況)でのバランス保持能力低下がみられます。

    ・すくみ足(FOG)と感覚処理:すくみ足がある方々では、ない患者群に比べて、視覚情報の処理に異常が生じており、空間認知と自己運動感覚の不一致が生じやすいとされています。

    ・「二重課題(デュアルタスク)」への影響:感覚統合は脳の資源(認知機能)を使います。感覚の処理が自動化されていないと、立っているだけで脳の多くの領域を使用してしまいます。そのため、歩きながら会話をするなどの「二重課題」を行うと、脳の処理容量がオーバーフローし、歩行が乱れる原因となります。


    4.感覚統合に着目した運動療法の基本的な考え方

    従来の「筋力トレーニング」や「ストレッチ」だけでは、この感覚システムの問題は解決しません。脳に対して「どの感覚への重み付けが重要か」を再学習するためのアプローチが必要です。

    重要な3つの戦略:

    1.視覚に頼らない練習(視覚遮断):あえて目を閉じて運動することで、過剰な視覚依存を抑制し、体性感覚や前庭覚からの感覚の入力を促します。

    2.感覚のコンフリクト(対立)環境を作る: 例えば「柔らかいマットの上(体性感覚が頼りになりにくい)で立つ」といった環境設定を行います。これにより、脳は強制的に視覚や前庭覚を優位に使わざるを得なくなり、感覚の切り替え能力(重みづけの柔軟性)が養われます。

    3.前庭系の活性化:めまいなどに注意を払った環境下で、頭部を動かしながら視線を一点に保つなどの運動を行い、前庭覚と眼球運動の連携(前庭動眼反射)を強化します。


      5.フィジオセンターでの実践的アプローチ

      フィジオセンターでは、パーキンソン病の方の「ふらつき」の本質を見極めるための評価を行っています。

      評価の視点:

      ・硬い床 vs 柔らかいマット
      ・開眼 vs 閉眼 これらの組み合わせで重心動揺を測定し、「視覚依存タイプ」なのか「体性感覚低下タイプ」なのか、あるいは「前庭覚の問題」なのかを分析します。

      実際のエクササイズ例:

      ・不安定板やマット上のバランストレーニング:あえて足元を不安定にすることで、足裏からの情報入力の感度を高めつつ、体幹でのバランス反応を引き出します。

      ・視覚遮断下での課題指向型トレーニング:安全を確保した上で、目を閉じた状態での起立・着座や、狭い範囲での足踏みを行います。「見なくても動ける」といった環境下でのエクササイズを実施します。

      これらの運動は、単にバランスを鍛えるだけでなく、「環境適応能力」を高めることを目的としています。


      まとめ

      パーキンソン病における姿勢制御の問題は、筋力や関節だけでなく、脳内での「感覚情報の統合プロセス」に大きな鍵があります。特に「視覚への過度な依存」から脱却し、体性感覚や前庭覚を含めた3つの感覚をバランスよく使えるようになることが、生活の中での転倒予防や、転倒リスクを低下する歩行につながります。

      「筋トレをしているのにふらつきが治らない」「人混みが怖い」と感じている方は、感覚統合のバランスが崩れているかもしれません。 フィジオセンターでは、最新の知見に基づき、お一人おひとりの「感覚の特性」に合わせたオーダーメイドのリハビリテーションを提供しています。 ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。


      理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中) Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト 日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者 BFJ公認野球指導者 基礎I U-15 津田 泰志

      フィジオセンター TEL:03-6402-7755

      一覧に戻る
      完全予約制
      ご予約はこちら