「歩幅が小さくなってきた」「歩くテンポが一定にならない」「歩き始めに足が出にくい」、パーキンソン病をお持ちの方やご家族の方から、このような歩行に関するお悩みを伺うこがあります。薬物療法によって手足の動きが改善しても、歩行の不安定さやすくみ足が残り、転倒への不安から外出を控えるようになるケースもみられます。
近年、こうした歩行障害に対するアプローチとして、メトロノームを用いた歩行練習が注目されています。一定のテンポ音に合わせて歩くこの方法は、科学的検証が進んでいる介入方法のひとつです。
メトロノームが歩行に作用する仕組み
パーキンソン病では、大脳基底核を中心としたネットワークの機能障害により、歩行のような「自動化された運動」を円滑に行うことが難しくなります。本来は無意識に調整されている歩行リズムやタイミングを、自分で意識的に作り出す必要が生じるため、動作が小さくなったり、動きが止まりやすくなったりします。
メトロノームなどの外部リズム刺激は、この内的リズム生成を補い、聴覚と運動の同調を促すことで、歩行のタイミングを整えると考えられています。これは「速く歩くための刺激」ではなく、「歩行を開始・継続するための合図を外から得る」アプローチと捉えることが重要です。
最新エビデンスから見たメトロノーム歩行練習
システマティックレビューやメタアナリシスでは、メトロノームを用いた介入によって、
・歩行速度
・歩幅
・ケイデンス(歩行リズム)
・歩行の安定性や変動性
といった指標に改善がみられることが報告されています。筋力トレーニング単独では変化が限定的だった歩行パターンに対し、外部キューを用いた介入が有効である可能性が示されています。
さらに近年では、スマートフォンやウェアラブル機器を活用し、個人の歩行に合わせてテンポを調整するデジタルの聴覚刺激の研究も進んでいます。これらの研究では、練習中の歩きやすさだけでなく、日常生活における歩行量や歩行の質の向上まで含めた効果が示されつつあります。
一方で、すくみ足への効果には個人差が大きく、すべての方に同じ方法が適しているわけではありません。メトロノームが有効な方もいれば、視覚キューや環境調整、別の運動学習アプローチの方が合う場合もあります。
フィジオセンターの実際のアプローチ
フィジオセンターでは、メトロノーム歩行練習を「音に合わせて歩く練習」として一律に導入することはありません。評価・安全性・個別性を重視し、歩行全体の中で位置づけて活用します。
1.介入前の評価
まず、以下の点を総合的に確認します。
・すくみ足やつまずきが起こりやすい場面(直線歩行、方向転換、狭い場所など)
・薬剤の On / Off による歩行変化
・歩行速度だけでなく、歩幅・左右差・変動性
・体幹や骨盤の動きのコントロール
・注意機能や複数の課題(デュアルタスクで)の影響
・自宅環境での安全性
これらを踏まえ、メトロノームという外部キューが適切かどうかを判断します。
2.自宅で行うメトロノーム歩行練習の考え方
※転倒が心配な方は、必ず手すり・壁・同伴者などの支えを確保し、屋外での実施は避けます。
① 普段の歩きやすいリズムを基準にする
いきなり速いテンポを設定することは行いません。普段の歩行で心地よいと感じるテンポを基準に、スマートフォンのメトロノームアプリなどを用いて、歩行が乱れない範囲で行います。
② 重視するのはテンポよりも歩幅と体重移動
テンポに合わせようと焦ると、小刻み歩行になりやすくなります。
・かかとから接地できているか
・一歩ごとに体重がしっかり乗っているか
・体幹が前方に崩れていないか
を優先し、必要に応じてテンポを下げます。
③ すくみ足がある方は再スタートの手順を含める
止まりそうになった場合は無理に動き続けず、
・いったん停止して深呼吸を行う
・目線を上げる
・「1、2、3」などの声掛けとともにメトロノームを再開
といった再スタートの型を作ります。キューは「急ぐための刺激」ではなく、「動き出すきっかけ」として用います。
④ 頻度と時間の目安
研究では介入期間や方法はさまざまですが、「無理なく継続できる形」が成果につながりやすいことが示されています。まずは5〜10分 × 週3〜5回を目安に、疲労でフォームが崩れる前に終了する設計を推奨します。
まとめ
メトロノーム歩行練習は、パーキンソン病で低下しやすい歩行のリズムや安定性を、外部キューによって補うアプローチです。近年の研究では、歩行指標の改善に加え、日常生活における歩行の質への効果も報告されています。
一方で、歩行障害の現れ方には個人差が大きく、「その方に合った方法」を見極めることが不可欠です。「メトロノームで逆に歩きにくい」「この練習で合っているのか不安がある」と感じた際は、ぜひフィジオセンターにご相談ください。適切と考えられる評価に基づき、安全で効果的な歩行改善のアプローチをご提案します。
理学療法士/保健医療科学修士号/認定理学療法士(運動器・脳卒中)
Certified Mulligan Practitioner(CMP)/LSVT® BIG 認定セラピスト
日本体外衝撃波医学会認定 運動器体外衝撃波治療施術者
BFJ公認野球指導者 基礎I U-15
津田 泰志
フィジオセンター
TEL:03-6402-7755